眠眠カフェイン

横になって読みたい寝言

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下戸なのにバーテンダー/下戸だからバーテンダー

僕は働くのが嫌いなくせに、いや嫌いだからか、いろんなバイトをやったことがありまして。その中の一つにバーテンダーがあります。なんだかんだ1年はやったのかな。

特に男性は少なからず興味をもったことがあるんじゃないでしょうか。モテるかなあとか。あるいは、モテるかなあとか。

 

思えばこれほどノリで始めた仕事もなかったです。
だって僕、まったく酒飲めないんですから。

もともとは普通によく行く店でした。ビリヤード・ダーツ・ピンボールはもちろん、ミニバスケット場があったり、車の上で飲めたりと、お酒がダメでもテーマパーク感覚で楽しめたんですよね。

 

そんなある日、僕はいかにも大物そうな薄毛の中年店員さんをつかまえて
「ここで働かせてくれませんか?」
と言ってみました。

それを聞いた店員さんはなにやら不敵な笑みを浮かべ、
「いいですよ」
とさっそく僕をバックヤードに呼びつけたのです。

あれよあれよという間に契約を完遂。スムーズすぎてマルチの誘いかと思いました。
一番驚いたのが、ほんの数分しゃべっただけで、バーコードハゲがさっきまで客だった僕を「お前」と呼んでいたこと。敬うべきは客だけというか、日本のグラデーションなき建前主義って本当に苦手です。

 

ちなみに時給は850円でした。
メインは家庭教師のバイトをしていたし(時給2000円~だけど時間が短すぎた)、金より経験目的で働きたかったから別にいいんだけど、衝撃の金額ですよね。いくら八王子だからって、なんらかの法に反した金額だったと思います。


あとハゲちゃびんは店長ではなくただのペーペーでした。本物の店長は僕のわずか2つ上(22歳)で、安保瑠輝也郷ひろみの間を取ったような落ち着いた男性。前職が聞けないくらい目が座っていて怖かった。

こうして晴れてバーテンダーとなった僕ですが、当然というべきか、次々に難敵が現れます。

 

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「バイトなかま」があらわれた!

飲食の深夜バイトですから、まずは定番の大卒いびりですよね。みなさんも2回や3回は経験があるのでは?あるあるでしょ?あれ、八王子だけ‥‥?

接客系の店員同士はわりと仲良し。ひどかったのはキッチンです。なんといっても包丁とか金属いっぱい持ってますから。
常連客には出していいはずの裏メニューを、その日の気分次第で断られたり。更衣室では私服を引っ張られて「いい服着てんなあ」と言われたこともありました。そんなトラブルで裾がビヨーンとなりながらも、涼しい顔で接客するというのがバーテンダーとしての最初の試練でした。

※その後、趣味で通っていたボクシングジムでキッチンのリーダーとばったり。変に強いと勘違いされ、無事ちょっかいはなくなりました。なんでもかじっておくもんですね。のちに拳を粉砕したけど

 

 

「ヤクザ」があらわれた!

水商売ですから、そりゃあ怪しい人がたくさんきます。
ごっつい男とほっそほその女がタブレット&ペンみたいな顔して歩いてきたら店長に目配せ。ちょっとしたVIP席に案内します。

だいたいが身なりで見当がつくのですが、1度だけ危ない瞬間がありました。
わりとこじゃれた服装のカップル客と、僕と、ホールの女の子の4人で喋ってた時です。

客(女)「〇〇ちゃん(ホールの女の子)は彼氏いないの?ネムヒコ君なんてどう?」
ホール女子「ダメですよー、ネムヒコさん彼女いるんですから。店にも連れてきたことあるし」
客の(女)「じゃあネムヒコ君乗り換えたら?お店でもずっと一緒にいられるんだから」
ネムヒコ「いやあ、僕に〇〇さんはもったいないですよ」

みたいな、バー特有の仮面をかぶったようなやりとりをしたあと、僕がトイレに行こうとしたら、客の男が後ろをついてきました。

そして角を曲がったところで
客男「〇〇に手出すんじゃねえぞ」
と強烈な壁ドン✋

あとあと分かったんですが、そいつもヤバい筋の人だったみたい。闇金だかポン引きだか人身売買ブローカーなんだかしらないけど、こういうサイレントヤクザはやめてほしいものです。素直に縦じまのスーツに龍柄のシャツを着てください。

 

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「さけ」があらわれた!

業務上の最大の敵はこれですね。いや、シンプルに酒の味がわからん!

特にワインやウイスキーはまったく違いが分からないので、注文が多く、比較的とっつきづらいカクテルの習得に全集中しました。酔っぱらわないように味見は最小限にして、本で想像力を鍛えるスタイル。ベースのスピリッツ(ジンとかウォッカとか)さえイメージつけばあとはジュース感覚だし、アルコール度数を間違わなければそうそう事故はありません。

それでも、最初のうちは頭フラフラで自転車乗って帰ってました。もちろんダメなんだけど、「邪魔だボケ!」とヤクザに後輪を蹴られて転んだりもしたので、社会的制裁を受けたものとして勘弁してつかあさい。


あと、あの憧れのシャカシャカ(シェイカー)も意外に厄介でした。

そりゃあ、最初の5回くらいはテンションも上がります。氷を入れ、リキュールを逆手で注いで、シャカシャカシャカシャカ!!!もうFUJIWARA原西さんくらいの勢いで振ってやりましたよ。
ただ、6回目以降ははただひとつの感想しかありません。

❄冷てえ❄

あれ、もうちょっと魔法瓶みたいなつくりにできないもんでしょうか。
たまーに家族連れの子供が寄ってきて、スツールにちょこんと座って見学されると萌えましたけど。よーし、お兄さんキミのオレンジジュース泡だらけしちゃうぞ!という感じで。

 

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「ババア」があらわれた!

居酒屋なら主におっさんが厄介だと思いますが、バーはその名の通りババアがヤバいですね。
もちろん熟年女性は大歓迎なんですが、
「しっかりお年を召し」+「まだモテ女と自認し」+「自分が格上だと勘違いしている」
が揃った方は要注意。
3つのフレーバーがフィーバーするとそれはもうバリバリ許容オーバーのバーのババアなのです。
コウメ大夫みたいな化粧した人の「私いくつに見える?」はエクストリーム難度。ぴったり当てても、露骨に下を言っても怒るし。実年齢3~5歳下の狭いゾーンのみ真の正解だし面倒です。


そういう方ほど「私に合うカクテルをお願い」みたいなことを言ってくるので、僕は毎回”しそ”のリキュール+トニックのシソトニックでやり過ごしてました。

味は爽やかで、渋好みの年代にも合わせつつ、ダジャレ要素もあるという最強カクテル。ネーミングを紹介すると、\ワーハハハ!/とドリフみたいな歓声が上がるんです。

あとロリにはヨーグルト、ギャルにはマリブ、それ知ってる他にないのー?と言われたらチョコ&生クリーム系のカクテルでだいたいいけます(フロストバイトとかグラスホッパーとか)。

店長からは原価高いからやめろと言われましたけど…ワーキャーいわれたくて…。

 

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「ひま」があらわれた! だが、ネムヒコはにげられない!

意外や意外、最大の敵は暇でした。
テーブルも何十席とあったし、常連客以外でカウンターにすすんで座る人も珍しい。ご飯もわりとおいしいので結構みんな落ち着く感じになってしまうんです。

そんな時は、店長からは
「ゲームさせろ」と指示が出ます。

グループ客はダーツをさせて、一番点数が低い人にはスピリタス(すごく強い酒)はどうかと煽ってみたり。話ばっかりして何も頼まない常連客は一緒にビリヤードして動きをつけたり。ゲーム中に飯は食いませんし、ゲーム代と酒で両方稼げというわけです。

なので暇自体がというより、暇だとこういう営業みたいなことしなくちゃいけないのが嫌でした。バーテンダーらしく優雅にグラスでも磨いていたいんですけど、現実は営業&高速皿洗いマシーン。

 

***

話のタネに、なんてよく言いますけど、学生の時はいろいろやっておくといいですね。社会人以降に積み上げることってまっとうすぎて意外と地味ですから。

特に下戸の僕はお酒の話についていけないことも多いので、バーテンダー時代の話は重宝します。少なくとも、外からは酒飲みの心理やややこしさを観察してきたので。芋だ麦だ白だ赤だタンタカタンだとか、味の話になるとさっぱりなんですけど。

下戸だから、バーテンダーという盲点。「お酒の魅力が知りたくて」なんて言いながら、酒の場で働いてみるのも意外にアリというお話でした。

 

夏場、アーバンソウル的音楽を耳にすると、いまでもバー時代のことを思い出します。なんだかパリピの一員になったみたいで。夜の雰囲気に酔えるんですよね。