最近仕事の疲労感が半端じゃなく、何が原因かずっと考えていた。
ストレッチポールで首をぐりぐりしたり、サウナで汗を流したり。それはそれでスッキリするけれど、一過性のものに過ぎなかった。
で、分かった。目だ。無意識を意識化するのってとても難しく、それは往々にして大きな気づきだったりするのだけれど、僕は気づいたのだ。事務作業をしているときに目を少しだけつぶって、眩しさを軽減しようとしていることを。
視力が極端に悪いわけではないが、おそらく光の加減が関係しているのだろう。僕はひとまず度のないブルーライトカットメガネを買ってみることにした。
気づけば即行動。
僕はアマゾンで適当な商品をポチり、届いた翌朝からメガネっ子として仕事に勤しんだ。すると、疲れがない。30分書きものをしようものなら首肩に襲い掛かってきた、あの猛虎が如き気だるさが現れない！ いや、世の中的にはごくシンプルな改善なんだけど、これまで裸眼で生きてきた人間にとってメガネ装着はかなりの思い切った発想だったのだ。
久々に目をしっかりと開けてエクセルを直視できた気がする。
ところが、それから一週間したころに新しい不満が生まれた。時折PCの黒い画面に反射する自分の見た目が気に食わなくなったのだ。似合わない。というか、デカい。どうみても子供の頃に見た映画『メジャーリーグ』にしか見えないし、そのまんま”チャーリー・シーンモデル”と銘打たれても納得する仕上がりだ。
（妻にかけるとアラレちゃんモデルとなった）
…。
これじゃミーティングにも参加できないし、本社出社なんてもってのほかだ。僕はオシャレメガネを買うべくメガネ屋に向かった。
そこは誰でも知ってる路面店で、さしづめメガネ界のGUみたいなところ。中学生がこようが犬が入ろうが拒絶されることはないはずなのだけれど、僕は巨大なアウェー意識を感じていた。
まず、メガネの持ち方が分からないのだから。バッティングセンターではじめてバットを持ったみたいなもので、素振りしようにも「バットが逆じゃないか？」「目の位置はどこが適性なんだ？」などと業界の常識が分からないのだ。
なにより、似合う似合わないの感覚が革命的になかった。これまでの人生で街を歩いてるおじさんや「うわ、似合わねえ～」とか感じたこともないのに、自分がかけるとすべて似合わないように見えた。
これまで、夜中に強烈な度入りの眼鏡を装着する妻に、”ビル・ゲイツ”呼ばわりしてきた報いだろうか。なぜこれまで長時間の将棋中継でメガネに着目しなかったのかを強烈に悔いた。
途方に暮れて、ついに店員を呼んだ。
店員はド派手なメガネをした、スタイリストみたいなちょいオネエの男性だった。リアクションが分かりやすく、すごく気分をのせてもらえた気がする。
ちょーん、と両手で僕の目にかけてくれる。お似合いですよ、あこっちもいいかも！少女のような無邪気さで褒めてくれ、時にはウフフと笑って似合わないと伝えてくれる。やっぱり店員がいるっていいな。全部がAIならこうはならないもんなと人間の温かさを感じながら、僕は一着のメガネを購入した。（単位は”着”らしい）
買ったのは「ボストン型」と呼ばれる普通のメガネなのだけど、いざ自分がするとなると奇抜なデザインに見えた。ボストンといえばバッグかレッドソックスかマット・デイモンのイメージしかなく、むしろ裸眼な街のイメージだったのだ。
妻には―チャーリー・シーンモデルの時と違って―好評で、次の日に「私もほしい！」同じ店に自分用のメガネを2着買いに行ったくらい。だからたぶんに合っているんだろうけど、まだ僕にはそうは思えない。
来週、これでMTGに参加しようかとても迷っている。
昔、上岡龍太郎が「恥ずかしさって気の問題で、別に性器じゃなくて小指でも隠し続けたらエロくなる」みたいなことを言っていたけど、人間ってとても不思議だ。別に脱ぐわけじゃなく、1着追加するのに、なぜ恥ずかしいのか。目の周りを円形に縁どられたからといって、なぜ笑われることを恐れるのか。
僕の目を塞いでいるのは色メガネに過ぎないのだろう。
それでも、「時東ぁみなんてイメージだいぶ変わるしなあ…」なんて考えながら、まだ見えない敵を恐れている。（メガネだけに）
