眠眠カフェイン

横になって読みたい寝言

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言い訳だらけのG-Cupフィーバー

池袋のバーで同僚2人と飲んでました。
男性と、女性。どちらも20代なのでひと回り以上若い子たちです。

 

夜も更けたころ、ふとコンプレックスの話になりました。
男の子のほうは
「ちょっと目が細いところかなあ」
とスタンダードな意見。
彼は長身で端正な顔立ちをしていて、ひたすらモテてきた人種。強いて言えば若干キツネ顔なのが気になるみたいです。

問題は女の子の方です。
「そうですねえ。胸が大きい事かなあ…Gカップあるんですよ私」

!?!!!!!?!?!???!?!?!?!?

あまりに唐突な告白に頭の中が感嘆と疑問の二進法になりました。
いや、僕らってそんなんじゃないんですよ。それまでの話の流れも仕事の話題がほとんどで、極めてマジメに部署内のボトルネックについて議論を交わしていた。それこそ、僕以外の2人は生徒会長を務めてきたような子なのです。
さすがのキツネ君も若干気圧されたように見えましたが、つままれたというほどではありませんでした。

「なるほどね、そういうのってあるよね」
うーん冷静。さすがにモテてきた人間のメンタルはGカップくらいで圧死することはないようです。そこから昔の彼女も巨乳だったみたいなプチエピソードを織り交ぜながら、G子ちゃんだけを下ネタ人間にはさせないという配慮を見せます。

 

そこから終電の時間までの1時間、少しずつ話はエロの流れへ。
キツネ君は
「みなさんは変わった場所でしたことあります?なんだかんだ僕は部室かなあ」
言う人によっては張り倒したくなるようなリア充発言ですが、さわやかすぎて妬みすら生まれません。パスタはやっぱりトマトソースだよね、くらいの自然さで心にしみわたります。

が、そこに大量のアンチョビを投下する存在が。
そう、G子ちゃんです。
「そういえば、男性お二人に相談したいんですけど、相手の感度はやっぱり気になりますか? というのも、私たまに1ストロークでイッてしまうくらい敏感で」

 

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

もはや心の中は一進法。
さすがのモテギツネ君も後で食べようと思っていた油揚げを盗まれたような顔つきになってました。
言い訳させてください。いや、違うんですよ。決して卑猥な飲み会じゃないんです。G子ちゃんは顔立ちこそ整っているものの決して奔放な雰囲気ではなく、眼鏡っ子で、どちらかというとアカデミック。それもロングヘアーのメイン研究者タイプではなく、ショートの助手タイプです。医学用語だからエロいことも普通に言えちゃうみたいな。歯医者ならおっぱいが頭に当たっても施術だからノーカウントみたいな。

僕とキツネ君は揃って博士然とした顔で彼女の話を聞き、
「うーん、でも彼氏は間違いなく嬉しいんじゃないかな」
などと、さもそういう女が過去にいた的な口調で相談に乗ります。角度の話、体位の話、持続力の話。止められないエロのテクニカル論を、まるで総合格闘技RIZINの話をするがごとく冷静に語りあって行きます。
ただ、そうはいってもやはり男性陣は気が気ではなかったのでしょう。気づけば終電の時刻をとっくに過ぎてしまっていました。僕らは店を出て、2件目を探して歩き始めます。飲んだくれで溢れる池袋北口を、ドラクエみたいに縦になってすり抜ける3人。それぞれの称号を可視化すれば、「パニック中年ライター」「むっつりエロギツネ」「イキやすいGカップ」になっていたに違いありません。

 

そのあとは結局カラオケに行きました。
誰が歌うでもなく、若手2人の推しKポップグループPVを流して会話を続けます。Kポップを語るGカップ。なんてくだらないよしなしごとが心をよぎりました。

3時、4時。
おじさんには区別がつかない韓国人男子の顔を50個くらい数えて流石にうとうととしてきたころ、いよいよ本飲み会のクライマックスが訪れます。
「あ、そうだ私、前からネムヒコさんに言いたかったことがあるんですよ」
真顔のG子ちゃん。
今度は何だと思いながらも…もう何も言われても驚かない自信がありました。
仕事で手伝ってほしいとか、実はこういうところが嫌とか、お父さんに似てるとか、もうどの方向から来られても予想を超えてはこないでしょう。

「私会社の男性の中で、ネムヒコさんの顔が1番好きなんです」

 

ΦΦ

 

もうびっくりとかの次元じゃありません。
40過ぎになって20半ばの女子からそんなことを言われたとき、胸に去来するのは照れや喜びではなく
「お前、俺をどうするつもりだ!?」
という不信感でした。傷だらけの野良猫が人間に謎の食べ物を差し出された時、きっとこんな心境になるんだろうなと。
「え、いやあ……」
蚊の鳴くような声で冷めたホットジンジャーに手を伸ばした僕は、どんなにかちっぽけだったでしょう。慌てて照れ隠しで「今度何かおごってあげよう!」などと言いましたが、そこに言霊の重みは一切乗っていませんでした。

 

***

まあー、浮かれますよね。
次の日やたらチルでごきげんな音楽をかけて走っちゃったりしましたし。
その女の子にはもちろん恋愛的な意図はないし、好青年の彼氏がいるのは僕も知ってますし、何かしようって気は一切ありません。ただ、人生で何度もないじゃないですか。Gカップの、敏感な子に、顔が好きって言われる…だなんて。もうスリーセブンのジャックポットですよ。

ということで、退屈な日々に突然訪れたフィーバータイムの話でした。
週明け、10年ぶりに寝坊して会社を遅刻したのはきっとこのせいです。べ、別に巨乳が好きって話じゃないんですけどね―――。