人それぞれ、自分のもって生まれたものに何かしらコンプレックスがあるはずだ。
障がいやジェンダー関連を除き男性でメジャーなのは、
・身長
・頭髪
・顔パーツ
・顔デカ
・老け顔/童顔
・学歴
あたりか。
ありがたいことに僕は上記6項目を気にしていない。どこをとってもほぼほぼ日本人平均。取引先の社長に4回初めましてと言われたから、決して特徴的な顔でもないだろう。これはこれで無個性の苦しさはあるのだけれど…そんなのぜいたくな悩みだと知っている。
しかし、コンプレックスが全くないわけではない。
伏兵の7項目目が控えているのだ。
それは、青春コンプレックス。
持って生まれた美醜、単純な努力不足では語りきれないサイレントキラーだ。
なにしろ物心がフニュフニュのうちに中高一貫の男子校に入っていたのだ。後悔してもしきれない。それが懲役6年と同義だなんて、学校も塾も教えてくれなかった。手遅れだと気づいたときには、まるでゲームで期間限定入手可能な最強アイテムを取り逃がしたような心地がした。
結果として、僕はそれを完全に克服したわけだけど、これはわれながら相当レアなことだと自負している。コンプレックスが消えた爽快感ったらない。もし青春コンプレックスを抱えている方がいたら、ぜひ参考にしてほしい。
※画像はイメージです
6年間服役しているあいだ、当然のように彼女はできなかった。さすがに高校に入った頃から危機感を覚え、1度は合コンに行く機会にも恵まれたが、そこで決め切れるほど当時の僕にはシュート力がなかった。
こうして卒業後長きにわたり、失われた青春へのリベンジは人生のテーマとなる。
本能的に、大学の4年間が勝負と悟っていた。社会人になれば男女の位置関係はフラットでなくなるし、結婚を意識することも増えるだろう。金と打算のにおいがするほど青春の煌めきは薄れてしまう。
僕は青春やりたいことリストをぶち上げ、確実に遂行していった。
☑手作りチョコをもらう
☑自転車二人乗り
☑制服デート
☑お祭りデート
☑センパイと呼ばれる
☑みんなで泊まり旅行(仮想修学旅行)
制服デートは一見難易度が高いが、20歳の時につき合っていた18歳の彼女(当然卒業済)が自主的に着てきた。誓って僕から頼んでいないが、なんて気の利く子なんだと抱きしめたのを覚えている。あと、センパイ呼びはバイト先の後輩にわざわざ頼んだ。
こうして大学までにすべてをやり終えたわけだが、なぜか虚しさは消えなかった。やっぱり、天然と養殖では必然性が違うのだろうか。わざわざ頼むというのがもう違う気がするし、大学生はみんな落ち着きすぎていた。もっと、なにこれどうなっちゃうの!?みたいなシチュエーションが欲しかったのに。
もう無理だ。所詮、前科者は満たされぬ世の中なのか。
そんな風に自棄気味になっていた26歳時、突然コンプレックスの霧が晴れた。きっかけは、チアキさんという2~3個上の女性だった。
チアキさんはブラック広告代理店時代の先輩だ。僕は営業で、彼女は会社がやってる飲食店の副店長をやっていた。とにかく店に客を呼んで口説き落とせみたいな営業方針だったので、おのずと絡むことも多い。
歯に衣を着せない性格で、
「ネムヒコ君おつかれさま。今日も汗だくだね」
「あ、いま僕めっちゃ臭いんで近づかないでください」
「えー、どれどれ。うわっ!臭っ!」
みたいなやりとりを気軽にできる間柄だった。
ショートで赤メガネ。だいたいがパンツスーツか、制服にサロンを巻いたスタイルで、いつも発注書をカルテみたいに小脇に抱えていた。生まれてこの方、あんなにお姉さん然とした人に出会ったことがない。
会社と飲食店は数百メートルほど距離があった。チアキさんはいつも自転車で移動していたのだけれど、ある時から僕に送ってくれと言うようになった。僕が前で、彼女が後ろで。もう二人乗りは初めてではなかったのに、やたら意識してしまったのを覚えている。
結局僕はその会社を1年もいなかったのだけれど、辞める1ヵ月前にとんでもない事件が起きた。
チアキさんが突然、
「ネムヒコくん、私とつき合ってよ」
とまっすぐに目を見て言ってきたのだ。ほんとうに何の前触れもなく。場所は会社のエントランスで、壁一枚隔てた向こうではガヤガヤとした日常業務が繰り広げられているというのに。
その物言いが冗談というにはあまりにフラットだったので、妙にグッときてしまって
「なんですか…それめっちゃいいですね」
と奇天烈な回答をしてしまった。
まあ、チアキさんには彼氏がいると伝え聞いていたからガチ回答を避けたわけだけど、向こうは僕の事情をまったく知らなかったらしい。
「僕彼女いるんで、大変なことになっちゃいます」とちょけて返すと、
「なんだ、いたのかよ」
とまたフラットな姉御口調が返ってきた。顔こそ笑ってるけど、残念だなーという演技すらないのだ。それってなんなんだろう。
…あれが本気か冗談かは今でも分からない。いずれにしろ、今までにつき合ってない女性から受けた中で最もストレートな愛情表現であることは間違いない。
その後は何事もなく、せいぜい退職日に
「これからもメールで月刊ネムヒコレポートを送ってね」
と言われたくらいで終わった。そんなことをすると本当に紛れが起こりそうだからやめておいたが、踏み込めば大人のズルい関係になり、僕が依存して、多くの人が傷ついたと思う。(1度だけフェイスブックで彼女の名前を検索してしまったことはある)
そんなこんなでチアキさんとの関係を経て青春コンプレックスが消えた。
と同時に、僕のコンプレックスが「男女で学校生活を送りたい」だったわけではないと知ることとなった。
この感覚は伝えるのが難しいのだけれど、自分から作為的に築いた関係ではなく、気づいたらそこにあるような男女関係に憧れていたのだ。結果、そういうシチュエーションが中学高校に多いというだけ。同じ実行委員になったから一緒に過ごす、とか。たまたま電車が同じだから話すようになるとか。
大学や社会人でも、適した空気感を持った人にであえれば十分挽回が可能なのだろう。
最初にコンプレックス克服の参考にしてほしいと書いたが、残念ながら撤回させていただく。こればっかりは自分から狙えるものではない。青春しようしようと作為的な態度を取れば取るほど、青春は逃げて行ってしまうのだ。
それでもあえてコツを言えば、バカみたいなことで笑える若々しさを持ち続けること。
なんとなく、「君」づけされなくなる辺りがリミットかな。
僕は30後半で共学の学校みたいな会社(社内恋愛だらけ)に入ったが、自分がどうこうという気はカケラも起こらなかった。もちろん人によるとはいえ、さすがにその年齢でちょこまかするのは痛いおっさんという風評が勝ってしまうだろう。
ともかく、青春は尊い。傷つき恐れる君も、すねている君も、まだ「君」とついているうちはふと訪れたチャンスを全力で謳歌するのをおすすめする。