眠眠カフェイン

横になって読みたい寝言

眠眠カフェイン

【ビジネス自慢回】スライムの兄貴に俺はなる

会社が結構ヤバい。

けっこう黒字だと思ったらエクセルがずれててけっこう赤字だった、というバカ丸出しの事態が起きて以来、ボスは人が変わったようにイラついている。自分のせいなのに。猫っ毛でタレ目でブリティッシュスーツで、荒れてみたって似合わないのに。

矛先は若手営業たちに向けられた。黒字だと思っていたから調子に乗って未経験人材を大幅増員したが、いまとなってはただのフレッシュな人件費。全員、ビジネスの意識もスキルもなく、ウェブ会議の裏で変顔キャッキャやったり居眠りしたりしながら、ボスの内臓を締め付ける。

ボス対若手営業の対立構造は末期を迎えている。
ボスは行動量を増やせとしか解決策を示さないし、ちょっとしたヒットを打ったくらいでは若手を誉めない。もはや細部が見えていないのだ。ホームランを打てない日はグラウンド50周だ!くらいにマネジメントが荒れている。
当然、ホームランの打ち方は誰も教えない。

 

一方、僕が所属するバックヤード組は比較的仕事のできるベテランが多いのだが、みんなピリピリと感じの悪い叱り方しかできない。それはポンコツ営業と長年暮らした習慣病のようなものだ。

若手が平身低頭詫びても、
「別に謝罪はいいので改善してください」
と冷徹にコーナーへ追い詰めてボディを撃つ。

ボスはそんな偏屈なバックヤード組を嫌う。
バックヤード組はいつまでもホウレンソウのできない若手営業を嫌う。
若手営業は承認欲求を満たさないボスを心底嫌い、ミーティング中は彼のキャプチャをとって鼻の穴を特大にするいたずら書きをかましている。

 

そんな中、今月はとうとう退職者が出た。↑の三すくみで退廃しきった社内のムードに耐えかねたおじさん営業マンだ。40歳を超えて「営業って売り込むの罪悪感あるよね」とか言ってるくらいのお人よしだから、それはそれで正解かもしれない。

頼みの綱のエース営業も、海外出張でしばらく帰って来ない。
雷を落とす経営陣、焦げつくバックヤード、散り散りに逃げ惑う若手営業。
オフィスが絶望の魑魅魍魎と化す中、そのど真ん中でたったひとりゴロゴロしてる奴がいる。
そう、僕である。

 

僕のポジションは治外法権を極めている。
この会社に僕以上に広告を知っている人はいないし、僕よりライティングが優れた人もいない。とはいえ世間的にまったくレベルの高い次元ではなく、せいぜいスライムレベルなのだが、バレない程度にレベルアップしてno1を保っている。

会社には期待していない。いつでも脱出できるように小型ポッドを仕込んでおいて、今の環境から学べるものを吸収するのみだ。

それは、ニート期間を挟んで4回も転職した、けもの道キャリア野郎の集大成ともいえる。氷河期を路地裏で凌いだ僕には、野良の魂が宿ったのだ。
何かが始まればいち早く手伝って実績を作り、業務が重くなる前に手を引く。それでいい。一番困っている時に助けてくれた存在こそを、相手は覚えているものだ。

自分がバカかもしれないという前提を捨てない。そして、相手が優れているかもしれないという可能性を捨てない。基本言い訳はしないが、もしやるとしたらみんなに希望を持たせる理屈をはなつ。
人間関係のバランスを保つには、シンプルにこれだけでいい。

 

もちろんどこにでもクソバカはいる。
こっちからある資料のキャプチャを送ったら、
「これデータ間違えてますよ。大事な資料なんだから間違えないでくださいね」
とわざわざ参照記事まで送りつけてくるが、
「これ〇〇さん(そのクソバカ)がつくったやつですけど…」
と返したら2度と返事がないとか。脊髄反射でマウントを取る教えたがりは一定数いるものだ。こんなんは、勝手に嫌われて孤立していくさだめ。

ただ、そんなんでも僕だけは「まああの人やる気だけはあるしなー」と見捨てずにいると、忘れたころにすり寄ってきて意外に良い関係になったりする。
誰かとの関係を壊死させると会社全体がだるくなるから、こういう我慢のムーブも意外に大事だ。

 

レベルも、精神性も、物理的にも、僕はスライムがごとき流動体へと変体している。
だって、リモートをいいことに60分あればうち20分はゴロゴロしているのだ。
相談の電話がかかってくれば、ジャルジャルよろしく天井を見ながら「それは大変ですねー」と深刻そうに相槌を打ち、PCからアラートが鳴れば即レスしてまた寝転がる。仕事がかさんだら書きもの系の仕事を後回しにする。書くのは趣味みたいなものだから、極論土曜日にためてチャチャッとやったっていいのだ。長い会議は録音しておき、元気な週末の散歩時に聞く。
とにかく抜く。避ける。フラットでいる。これから体力は減る一方なんだから、いかに楽して仕事するかを今のうちに研究しておかなければ。

結果、4~9月の個人達成率は140%だった。その目標設定にもまあ小細工があるのだが…人にはそんな狡さが決してわからない。忘れたころにキラン☆と現れて、「あのスライム意外に経験値持ってるかも」と思わせたらこっちの勝ちなのだ。


あと、最近はいろんな部署の人とご飯を食べるようになった。リモートで多少は人と喋りたくなっただけで、別に営業しようという気はないんだけど。

初めて会う人には「僕はゆるさ担当なんで何度聞いてもらってもいいよ」と宣言するし、仕事のものさしは”楽しさ”でしか語らない。
たとえば若手営業には「受注を取れ!」ではなく、「自分のクライアント持つって楽しいよ」と伝え、その人に似合ったアドバイスを送る。僕は昔からこういう人間なのだが、Z世代の人には本スタイルがとりわけ響くようだ。

 

なぜか最近では、若手営業のほぼ全員が僕を「アニキ」と呼ぶようになった。グループラインがもはやヤクザのそれである。とてもそんな柄ではないのでこそばゆいが、ボスへのヘイトの反動から、ちゃんと話を聞いてくれるおじさんへの需要が高いのは分かる。
ちなみに一番下のやつは僕がWEB会議にこっそり二重まぶたで参加してるのを知らせたもの。こんなことをしたわずか数分後に、真面目な顔で下半期の売上アップ策を5プランも提案した僕に、後輩たちが何かを感じてくれたら嬉しい。

 

会社には期待していないが、人はみんな嫌いじゃない。なので、僕は敵じゃないよぷるぷるという感じで能天気に立ち回る毎日である。

と、今回はタイトルにあるように自慢し倒してみる回。ただこれは僕が凡人で、数十回も失敗してきた結論でもある。それなりに仕事のヒントを散りばめているので、迷える若人はぜひ参考にしてみてほしい。