眠眠カフェイン

横になって読みたい寝言

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永遠の野球少年とカレーを食う

約1年ぶりに、前職の先輩に会ってきました。何人か気になっているメンバーもいたし、なによりWBCが終わったら振り返りをしようと言い合っていたので。僕が働き始める前に会っておこうと思ったのです。

先輩は野球が好きです。
野球しか好きじゃないってくらい好きです。
とはいえ、振り返り云々の話をしたのは在職中の話。忙しい人なので、スムーズに事が運ぶかはわかりませんでした。

 

2日後、LINEの返事がきました。
「かしこまりました。水曜日の12時でいかがでしょうか?」

先輩はデジタルのノリが下手です。
会ったら「おう!ネムヒコ君なんだよもっと早く連絡してよ〜」と古きよきテレビマンのノリなのに、電波を通したロールプレイができないのです。僕は脳内に先輩の姿を浮かべ、フランクな口調に変換して、了承の旨を伝えました。

 

待ち合わせは、いつものカレー食べ放題の店。

そういえば先輩はカレーも好きです。
野球とカレーだけ好きってくらい好きです。

 

先輩は前に会った時と一切変わらないたたずまいで店先に立っていました。引き締まった1番・センター体型。営業マンらしくよく日焼けしていて、顔はどことなくマッチ(松田宣浩)選手に似ています。

1年口をきいていないというのに、第一声は
「次のWBC監督誰かね!?」
でした。

飛ばしすぎです。
普通、ないですか?「元気?」「いま何してんの?」とか、野球にしてもせめて「すごかったね日本」とか。いきなり3年後の野球の話なんて、さすが、人生における野球ファースト具合が強固です。

 

先輩「やっぱり工藤かな?」
ネム「いけそうですけど、じっくり育てて固めてくタイプで、急増チームを短期でまとめるイメージないっすね。熱さやノリとは違うというか」
先輩「そっかー、俺、実は立浪あたりいい監督になると思ってたんだけどなあ…あんまりうまいこといってないね」
ネム「そっすね。こないだのWBC選手が中日に戻ってきた時も、落合英二とで古いイジリしてましたよ。『おう、さすが優勝した人は言うことがちゃうな』みたいな。ロートーンで。ああいうの、今の若手は嫌がりそうです」
先輩「確かになあ。落合もピッチングのコントロールはいいのにねえ。人のコントロールは訳が違うか。新庄もなさそうだし、高津あたりになるのかね」

カレー食べてる間、ずっとこんなんでした。僕もまさか会って1分で落合英二(実働:1992 - 2006)の話すると思ってなくて、急ピッチで身体中の野球中枢をONにしました。

 

そうこうするうち、先輩はカレー2杯目に突入。
さすがに多少は仕事の話題にもなったのですが、基本的にすべてがボケです。野球以外は真剣に話せない人なのです。

「そっか。ネムヒコ君、俺の倍の年収になっちゃうんだね」
と大飛球を打たれたら、
「いやいや、先輩いつから週3日勤務になったんすか!」
と背走キャッチして、

「そういやいま、ライティング部署のイスが1人空いてるよ。新しい会社辞めてうちに戻ったら?」
とバントされたら、
「もう!社長のイスが空かないと帰れませんよ!(社長と僕がバチバチなんで)」
高速チャージからのランニングスローで対応します。

 

先輩は3杯目に突入。
遅ればせながら2杯目を食べ終えた僕に、
「若いのに少食だね!」の声。

先輩。僕はもう40を超えているんです。そのくらいになると、ほとんどの野球選手は引退している……ハッ!君はもうコーチなんだよという励ましなのか!?とか考えていたら先輩は勝手に店を出ていました。

 

食後、新宿中央公園へ。
店からはちょっと距離があったので、その間は古今東西・苗字が一文字の野球選手をやって過ごしました。

「秦。」(真司/1985 - 2000)
「音。」(重鎮/1988 - 1999)
「高。」(信二/1986 - 1998)
「梵。」(英心/2006 - 2017)
「うーん……呂!」
「先輩、台湾人ありなんすか」

みたいなやりとり。メンツが渋すぎます。普通に森とか林とかいえばいいのに、どうしても電光掲示板で見た時のインパクトが記憶にあって、変わった名前の選手を選んでしまうのです。

その後、苗字が「こうの」の野球選手縛りもやったのですが、一発目に先輩が当たり前のように挙げた「鴻野淳基(1980 - 1993)」がツボにはまってしまい、笑い過ぎて中止になりました。一発目から「河野」じゃないんだ!っていう。

 

その後、公園の芝生に降り立った先輩はまごうことなき熱男でした。
WBCで感動したのは、実は大谷や村上でもなく、決勝9回のゲッツーだったと熱弁します。すべての基本を詰め込んだようなショート源田の足さばき、力感のない送球を、スーツ姿の先輩が的確に再現していきます。

途中、
ネムヒコ君、ちょっと山田やって!」
というので、僕もセカンドで参加して、40代のおっさん二人でヴァーチャルゲッツーをやったのです。この人無邪気だなーと思う反面、周りから見たら俺も同じなんだと、なんだか楽しくなってしまう自分がいました。

その後、先輩は突然の電話に
「じゃ俺ちょっと会社戻るわ、今度キャッチボールしようぜ!」と帰っていったのですが、その姿は完全に小学生のそれでした。

 

若手から見たら、
LINEが冷たく見えて、声がでかくて、野球の話ばっかりで、まじめな話ができない色黒おじさん。後輩女子と一緒でもスタスタ歩いちゃうし、そりゃ波長は合いません。でもどうですか。何かを純粋に好きだってこんなに素晴らしい。

新しい職場に乗り込む前に、最高の景気づけになった一日でした。
決めた。オレ今年度の新人王になるんだ!