眠眠カフェイン

横になって読みたい寝言

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御の字ってめでてえ象徴じゃねえのかよ

YouTubeで『令和の虎CHANNEL』を最近よく見ている。
ビジネスアイデアをプレゼンして投資者から出資を募る、というコンテンツ。だいぶ昔に『マネーの虎』というテレビ番組があって、それをよりバラエティ寄りに踏襲している。

もちろんアイデアの精度は大事だが、最終的にうまくいくかいかないかの判断は態度やマナーで決まることが驚くほど多い。

話にならないのが30点以下、見るからにワクワクするアイデアが80点以上とすると、その間はもう志願者のキャラと気合い次第といっても過言ではない。最低限を満たしていたら、あとはそんなに変わらないもの。
「変なTシャツ」と「限定コラボTシャツ」以外が、「まあTシャツ」とくくられるように。

 

というわけで勝負はビジネスアイデア以外の所で決まる。
相槌、口癖、身だしなみ。
やっぱり、今後長く一緒にやっていくうえで、最終決定前にはそういう細かい点が気になってくるのだろう。

今までに評価を下げたパターンでいうと、
・結論から言えず話が長い
・相手の目を見ない
・つくり笑顔すぎる
・「わかりやすく言いますね」と謎の上から目線
・うんうん、あーはいはいはい、とかぶせ気味で耳障りな相槌
とか。

有名なところでは「今回出資を得られなければこのアイデアは捨てます」と言った人もいた。この言葉は、あなたの気持ちはその程度?と投資家たちの逆鱗に触れ、決まりかけた巨額の出資がパーになった。

 

人間の機微ってほんとうに微妙だ。
”第一印象で決まる”とか言うけど、全然決まってない。急転直下で関係がダメになることはザラにある。

年収が1000万あって、すごくおしゃれにスーツも着ているが、店員に対して偉そうにするとか。あるいは定期的に回屁をこくとか。高年収の前ではそんなの屁でもない、と思うかもしれないが、回数を重ねた屁はかなりの苦痛だ。もちろんアウトプットするほうではなく、吸い上げる方が。

 

で本題なんだけど、このあいだ人材紹介会社のコンサルタントとオンライン面談をしていたら、とっても奇妙な空気になった。30歳くらいの男性で、格闘家の堀口恭司から身体能力をすべて奪ったみたいな風貌。初対面のわりに打ち解け具合は上々だったが、事件は最後の最後に起きた。
僕の職務経歴書に、彼が1か所添削を要望してきたのだ。

それは、
「御社の”御”の字が間違っていますので直してください」
という指摘だった。

あれ?そうでした?と僕は慌てて確認したが、きちんと「御社」になっていた。それでも男性は、ええ、間違ってますよといって聞かない。

 

こうなると急性ゲシュタルト崩壊というか、ちょっとしたパニックになる。”高”橋と”髙”橋みたいに僕の知らない本格派の”御”があって、一生間違えて使ってきたのかもしれないとか。だいぶ根本的なことも考えた。それでも答えは出ない。

最終的に、
「正しい御の字ってどんなのでしたっけ?」と聞いてしまった。

その答えがちょっとしたホラーなのだけど、彼は彼で
「貴族の貴ですよ。貴に社です。弊社ではみんなそっちの字に統一してるんですよ」
と言ってきた。

ほな新説かあ。僕の脳内でミルクボーイ内海が角刈りに腕組みで首を傾げた。
「御社ちゃうやないか!御社は、御の字がついてるからめでたいのよ。”貴”も良い言意味か知らんけど、そもそも”おん”ちゃうないか!」と。

気を取り直して僕は言う。
「あれ?それは”きしゃ”ですよね。字が間違ってるとかじゃなくて」
男性はいう。
「……えーっと、おんしゃです」

?????????

僕も彼もポカンとしている。その後何度かラリーを繰り返したが、なかなか要領がつかめない。いやいや、人材コンサルタントが貴社読めないとかある? 誠に申し訳ないが、相手がとてつもないバカに見えはじめる。どうでもいい論点で収集がつかなくなり、最終的には僕が「えーっと、じゃあその一文削りますね」といって終わった。

 

結論、彼が伝えたかったのは
「書き言葉の場合は”御社”じゃなくて、”貴社”を使え」というよくある話だった。
僕は僕で、昔からその使い分けを知りつつも絶対視してこなかったのが悪いのだけど、まさかそれを「御社の御の字が間違ってるので」と表現されるとは。

男性が指摘内容はまっとうだ。僕はなあなあにしてきたマナーを徹底しようと決めたし、まったく怒っていない。
問題は、指摘の中で無駄なラリーが生まれたことだ。
どちらも気分を害していないとはいえ、こういう入れ違いって地味に大きい。面談が終わるころには、なんだか気が合わない人だなあくらいの感想になってしまっていた。

些細なことだけど、人は不安になると「こんな些細なことも伝わらないなんて、今後詰めた話できるかな?」とネガティブに捉える。「そういやクッション言葉なしで『間違ってます』も感じ悪いし、変な空気になった事態をまとめるのは向こうの役割であるべき」とか不和を拡大解釈したりもする。

あらためて、丁寧な伝え方、収め方に気をつけたいものだ。

 

あとこのやり取りの最中ずっと地味に気になるのが、僕の服装がジャケットでヤツがゆるゆるパーカーだったということである。