眠眠カフェイン

横になって読みたい寝言

眠眠カフェイン

運命の小説(キミ)に出逢いたい

面白い小説はなんでこんなに見つけづらいんだろう?
もうずいぶん長いこと、そんな悩みを抱えている。

 

書店の空気はすごく好きで、ちょっとした空き時間にふらっと寄ってみるのだけれど、小説コーナーはどうしても落ち着かない。読んでみたい本と、そうでない本を選り分けるのが難しいからだ。

派手やかな手書きPOPがストーリーの良さを熱弁しても、あんまり心に刺さらない。僕は小説に”ストーリーの面白さ”をそれほど重視していないし、「考えさせられる本」みたいなのはノンフィクションで良いと思っている。
何気なく秀逸な文体、表現に驚きたいというのが基本線にあって、それを引き立てるストーリーであればいい。

自分が問題を抱えた読み手であることは自覚している。

…メタいことを言うと、その「問題」について、ここから1000文字×何度も書き直した。どうしてもまとまらないので、言葉足らずを承知で箇条書きにしてみる。

 

第一に、売れ筋の本がことごとくハマらない。
第二に、ストーリーが面白くても、文体が合わないと続かない。
第三に、本に”思わぬ出会い”を求めていない。
第四に、リアルの知り合いにおすすめを聞くと、ちゃんと読まなきゃいけない気がして面倒。

要するに、明らかにビタビタ自分好みの本だけをしっかり没入して読みたいってこと。「気まぐれに手にとって、意外な自分を発見」なんてワンナイトは求めていない。ただでさえ80点超の作品に出会えていないのに、50点の面白味をかみしめてる場合か!そんな理屈から。

50点を不合格とせず、”50ポイント”として加算できる健全さがあればいいんだろうけど‥‥僕はそういう健全な「読書家」じゃない。

 

必然的に、買う前には何ページかは中身を見る必要がある。
かといって、小説をいちいち棚から引っ張り出してみていくのは効率が悪すぎる。ECサイトの”ちょっと覗き見”みたいなものも同様だ。「文章の硬さ」「比喩の飛躍度」「方言色」……など自動判定してくれる文体AIが欲しいとつくづく思う。

小説選びは疲れる。だから煙が高いところに寄せられるように、小説以外の棚に行く。
他のジャンルに求めるのはテーマなので、タイトルを見るだけで興味の選別できてスムーズだ。

 

いま気づいた。この文章を書き始めた時には発想がなかったのに、言語化してみてわかった。

これ、あれだ。
婚活こじらせ状態だ。


書店のPOPや書評ブログがキャリア推しで薦めてきても、
「えぇ、中身を見てからでないとぉ」と心がブレーキをかけている。

損をするのが嫌だから、自分でターゲットを狭めて、合格点以上の体験のみを勝ち取ろうとしている。こだわるからめっちゃ疲れる。そのうちに、自分が小説を読みたいのかすらわからなくなっている。
ノンフィクションばっかり見るのは、仕事に没頭するのに近いかも。

 

だからって、
よし、これからは怖がらず手を出してみよう!数撃ってみよう!
って単純な話じゃない。
僕にはもうディズニー帰りにダンサーを目指しちゃうような感性はないし、そういうのは外野が言うことだ。
むしろ、無理して探さなくていいや、という結論に近づいている。

出版社勤務時代、ちょっとした出来心から上司にオススメ本を聞いて、浅田次郎をほぼ全作読まされることになった。そんな苦い経験が僕の心をいっそう頑なにしている。

 

思えば、今求めているほどの質量で心揺さぶられた小説なんて、過去にも3回くらいしかなかった。

 

村上龍コインロッカー・ベイビーズ
読んだのは中学時代。ストーリーに加えてキャラクターが魅力で、なにより厨二病の時期に出会ったのがよかった。ロックを覚えた時期にこんなタイトルと出会ったら、手に取るに決まってる。他の作品も割と読んだが、年齢を重ねるたびに合わなくなっていった。

村上春樹世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド
コチラは高校時代。視点・表現の角度がいままで見てきた小説と違い過ぎて、完全に引き込まれた。そのままほかの村上春樹作品を見ていくうち、パターンに慣れて熱は若干トーンダウン。とはいえ信頼度の高い作家に間違いはない。

重松清『疾走』
30歳を超えて初めて読んだのに、思春期でも味わわなかったくらいの衝撃を受けた。とかく家族愛・青春でキメキメになりがちな著者の表現が、ダークな世界観で覚醒している。「これだけ別の人が書いてる」と言われるほどの異色作で、他のタイトルはまったく好みに合わない。

そして、これらの体験には共通点がある。
・「読んでいくうちになんとなく~」とかじゃなく、パラパラ見ただけでただごとじゃないと気づいた
・著者の他の作品にはそれほどハマらなかった
・自分好みの本が出会いたい!と熱望して手に取ったわけではなかった
……ますます出会いみたいじゃないか。
相性はだいたい最初に分かるし、好みと”似てる”人ではダメだし、出会いを求めすぎる時は手に入らない。なによりタイミングが肝心。
あまりにしっくりきすぎて、絶望してしまう。


彼女がほしい。
でもワンナイトは求めていない。
強く、深く願い過ぎると手に入らない。
でも、小説のコーナーに立っている時点で彼女をほしがっていることになる。
そういう”出会いの妙”におぼれている。