眠眠カフェイン

横になって読みたい寝言

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男なのに車道側を歩かなくて説教を食らった話

仕事でもなんでも、ルールを相手に強いるときは目的の明示がセット。
会社で代表電話を取るのは取引先の名前を覚えるためだよ~、とかですね。
それがやり甲斐や、率先した行動につながります。

 

しかし、男女のマナーに関しては、その辺があいまいなものも散見されます。
そのうちのひとつが男が車道側を歩くというもの。

跳ねた水しぶきや石、迫りくる暴走車両にたいする肉壁となれ。
やさしく言えば「身を挺して守ってね」、激しく言えば「お前が先に死ね」ということになるんでしょうか。
確かに女性からしたら、みなまで言わすなという感じですね。

 

このマナーについては僕も個人的に思い出がありまして。今回はそのあたりを語っていきたいと思います。

 

 

今回のヒロインの名前は、サクラちゃんとしておきましょう。
彼女はとても乙女な子でした。広い庭付きの家に住んでいて、周りからは”姫”と呼ばれていました。まあ、住んでるの日野なんですけど。

彼女は大学時代、何人かで遊ぶ友達のうちのひとり。僕は家の車を自由に使えたので、不定期で「ドライブ行きたい」みたいなことを言い出してくるのです。別に高い飯をおごらされるでもないし、行けるときは行ってました。

 

カラオケに行くと、吉川ひなのの『ウサギちゃん SAY GOOD BYE』を大真面目に踊ってくれるのがめちゃくちゃよかった。本家のMVでも別に踊ってないし、あのダンスの元ネタはなんだったんでしょうか。もしかしたらオリジナルだったのかも。ちょっと不思議ちゃんSAY HELLOな子でした。

I am pink

I am pink

 

なんだこのふざけたアルバムタイトルは…。

 

サクラちゃんは男子のマナーにうるさい子でした。「車道側を歩く」のほかには、「通路側に座る」「ドアを開ける」「歩調を合わせる」とか、よくあるやつですね。

で、先に言っておくと、僕もやってたんですよ!
ただめんどくせーのが、彼女は当たり前のように譲られるわけじゃないってことなんです。最初から歩道側に行けばいいのに、放っておくとぐんぐん車道側へ行く。そのうえでさりげなく先に場所を取れってこと。

あとから押しのけて歩道側へ行ってもらうのでは、もう失格なんです。だいぶ先になってから知ったんですけど。

レストランの駐車場に停車して、向こうが先に外へ出る。そこからはタイムアタックの始まりです。何らかの形で彼女をまくって先にドアにたどり着かなければならない。
とはいえ別に従者じゃないし、あんまりバタバタしてもカッコ悪いので、僕はできる範囲でやってました。

 

でも、ある日説教されたんですね。
しかも会ったこともない女友達が、代理で電話かけてきたんですよ。

コイツの名前を蟹江といいます。


呼び出されたのは八王子の裏通りにある喫茶店
コーヒーもパンケーキも煙草の味しかしないような老舗です。

「あんたさあ、うちのサクラに冷たいんだって!?」
なんでしょう。まんま漫画のキャラクターというか、わかりやすくさばけた口調でした。ビシッと黒いスーツで、髪はザーッとアップにしてて、ザクー胸開いてて、ガーッ足組んで、スパー煙草吸って。珈琲飲んで、煙草吐いて、クッキー食べて、タバコ吐いて。マジシャンかお前は。


蟹江はサクラちゃんの高校の同級生でした。育ちは納得の立川。
ややこしいことに、この子がものすごい美人なんですよ。男好きするというより、同性が憧れるようなさっぱりした感じの。よくよく聞いたらキャバ嬢だってことで、なるほど度胸座ってるなと思いました。

「冷たいって、普通に遊んでるだけけど」
「だって、ドアとか開けないっていうじゃん」
「・・・!?」

プチパニックです。
あれって努力目標じゃないの!? 達成率100%がマストですか社長!?っていう。まさかそんなの言語化されると思ってなくて、なんてかわいい理由なんだと笑いそうになってしまいました。

よくよく聞くと、世間知らずのサクラちゃんは昔から遊び人に捕まりがちだったとのこと。友達として、とにかく育ちがよく、気の利く人に預けたい気持ちがあったみたいです。

 

ちょっと話すと、僕がそれほど悪い奴じゃないと分かって大人しくなりました。むしろ、蟹江自身に情報量が多すぎて色々聞いてしまった。ふらっとインド行ってなんか吸ったとか、どこぞの資産家と数日間だけ結婚したとか、異世界もいいところ。
ともあれケラケラよく笑うし、「ああ、この子は万人に好かれるなあ」という感じでした。いい姉ちゃん過ぎてパンツ見えても全然うれしくないタイプ。

 

ちなみに僕が蟹江の心を決定的に解いたのは、
「なんかジョディ・フォスターに似てるな」
という言葉でした。

エラで賛否が分かれる女優で、純度100%の褒め言葉ではなかったものの、
「なにそれ!言われたことないんだけど!ハリウッド!?お前いいやつだな!」
と激烈ポジティブに受け取ってくれました。年下なのにお前呼ばわりしてくるのはともかく、仲良くなれてよかったです。

その後蟹江とは、僕の友達とサクラちゃんとよく4人で遊ぶようになりました。今はなき多摩テック(遊園地)でゴーカートしたり、心霊スポットを一緒にめぐったりして。廃病院にビビりすぎて坂を転がり落ちた蟹江、ジョディ主演の『パニックルーム』みたいで面白かったなあ。あの映画の終盤最悪ですよね。

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まとめます。
月並みですが、女心って難しい。

僕はふりまわされるのが嫌いではないし、いい機会だと思ってレディ・ファーストの立ち振る舞いを学びました。その後サクラちゃんとはつき合うことになり、蟹江呼びだし事件も笑い話に昇華されることに。

たまに出遅れたとき、長友ばりに身体をねじこんで車道側のポジションを奪うと、
「そんなに頑張らなくていいよダーリン」
と苦笑いされたこともあります。
この際、呼ばれ方は気にしないでください。

 

人によっては、「女ってめんどくさい」「そんなしてまで付き合いたくない」「日本男児がそれでいいのか」という人もいるかもしれません。
でも、いいんです!(アモーレ!)
理解できないから楽しい。女王と物言わぬ近衛兵ってなんかいい。僕はそんな風にポジティブ変換して、こっそり世界を防衛しています。

もちろん妻に限らず。
もしあなたが女性かお年寄りか障がい者か怪我人か子供かペットなら、すれ違う時は僕が車道側にまわります。