眠眠カフェイン

横になって読みたい寝言

眠眠カフェイン

ナチュラルボーン・ヒール・ライフ

格闘家で秋山成勲さんという方がいまして、その人がまあ嫌われやすい体質なんです。それはもう選ばれしものというレベルで。

古くは2006年大晦日に起きた”ヌルヌル事件”。当時大人気だった桜庭和志選手との試合において、ボディクリームを全身に塗って出場停止処分を受けました。相手に体を掴ませないようにするためですね。
やったことはもちろん、そのあとの対応も最悪でした。「僕、なんかやっちゃいました?」みたいな顔で「乾燥肌なもので」などと釈明したため余計火に油を注ぐ結果に。


そしてきわめつけは、入場曲にサラ・ブライトマンの『Time To Say Goodbye』を使用したことです。これは当時世界最強と言われた、日本が誇る格闘技イベント『PRIDE』の最強決定戦で使われた曲でした。暗黙の了解として、とても一格闘家が自分個人のテーマにする雰囲気ではなかったのです。それも、いかにも日サロで真っ黒に焼けたようなムキムキの柔道家とは。絵に描いたようなミスマッチに見えました。

当時の格闘技界はいまよりもプロレスの潮流が強く、「粋」「予定調和」を重視する部分がありましたから、そうした空気を読まない行動はファンからの総バッシングを浴びました。よりによって、あなたがそれいっちゃう?という。

彼の行動するタイミングが致命的に悪すぎて、ファンからすればあてつけというか、挑発されているようにしか映りませんでした。今よりネット上の日韓煽りがあなり激しい時期でもあってヘイトは加速(秋山さんは在日韓国人四世)。

 

あのヌルヌル事件から10数年。彼はまだ現役であり続けています。どころか、40歳半ばを過ぎて、また別の世界線を生きるレジェンド格闘家・青木真也に勝利しました。彼のナルシスティックなストイックさはいまだ健在です。

かの悪名高き事件についても、youtubeなどで「僕が全面的に悪かった」と改めて反省の弁を述べていますが、言葉のいたるところに余計な自己弁護のフリンジがついており、相変わらず反省が下手だなあと思うことしきりです。

 

あれから僕も、秋山さんと同じだけの年月を重ねてきました。在日韓国人としての苦悩を語るあ秋山さん。お母さんの手料理を心から美味しそうに食べる秋山さん。バナナマンの番組で奇跡のような引きを発揮し、罰ゲームでセミを5匹くらい食べた秋山さん。いろんな角度から、彼の人生を並走してきたのです。

僕はただの一ファンだからあの事件の許す許さないを論じる立場ではないけれど…笑顔が可愛い人だなとか、好意的に見える瞬間は増えました。

 

そして今冷静になって考えるのは、秋山さんには特にあえて他人を挑発する意図はなかったんじゃないかってこと。自分でも気づかないくらいの小さな嘘をつき、ちゃんと反省できていると錯覚し、みんなに愛されていると信じている。そういうタイプの人っぽいです。どうやら。

カテゴリ分けするなら、いわゆる天然さんという分類になるでしょう。こういう人は一部から熱狂的に嫌われるけど、その分慕う人も数多くいるものです。(残念ながら僕は出会ったことがありませんが)

 

少し話が逸れるけど、ちょうど前職の社長もこんな感じの人でした。

記憶喪失かってくらい自分の言ったことを忘れているし、人に注意したことを自分でやるし。どう考えても相手に非がない時でも、小学生みたいに道理のないシナリオをつくりあげて叩ける人。で、翌日は何事もなかったような顔で話しかけることができる。

お世辞にも思慮深いとは言えませんが、それでも会社を20~30年続けていられるのだから変なカリスマはあるのでしょう。総務・経理・人事…と各部署に数少ないながらも濃い信者がいて、不思議と組織としては統率がとれていました。ある種の人から見たら、ナチュラルボーンなサイコ奔放さかわいらしく見えるんでしょうね。

 

悪役のヒール(heel)と癒しのヒール(heal)の両輪。
これはこれで得難く、大物になる素養なのかもしれません。
おあとがよろしいようで。

 

あと念のためにいっておくと、”テキサスの暴れ馬”の異名を取った総合格闘家ヒース・ヒーリングは特にヒール要素をもってません。試合前に相手からキスされて「俺はゲイじゃねえ!」とつい殴ってしまっただけです。