眠眠カフェイン

横になって読みたい寝言

眠眠カフェイン

彼と彼女を繋ぐもの

世の中には、
「どんな人がタイプ?」
という魔性の質問がある。

これに対して「面白い人かな~」と答える方が結構な割合でいるのだけれど、聞くたびに身の引き締まる思いがする。だってつまりは、「のう、お主は面白いか?」と投げかけられてるわけだから。一休も裸足で逃げ出す無茶振りである。

 

180cm以上!とか、お金持ち!とかならバッサリ不採用通知だから気持ちがいい。その点、面白さにはいろいろ種類があるから困る。相手が求めてるものはHikakinの変顔かもしれないし、立川談志の落語のまくらかもしれないのだ。せっかく質問して答えてくれたのに、さてどんな面白さだ?という第2ラウンドがはじまる。

いっそ、あえてカウンターを取ってみる手はある。「面白いって変顔とか?」と聞いて見れば、「いやそういうんじゃないから」なり、何かしらの感触を得られるだろう。

 

僕は基本的に、相手の答えに分かりやすく乗ってみるタイプだ。もちろんボケのトーンで、である。優しい人が好きと言われればすぐ「大丈夫、寒くない?」と言ってみたり、自分を持ってる人をご所望なら「分かる俺も同じそれだけは譲れない」といごっそうを気取ってみたりする。
別に媚びてるわけじゃない。何を隠そう僕の好みの1つが「細かいボケに気づいて笑ってくれる人」だから、こっそりストレステストしてるようなものである。

 

このように男女の駆け引きはめんどくさい。事実、つき合うなんてめんどくさいと彼氏彼女をつくらない人も増えてるらしい。そんなこと言い出したらゲームやオタ活なんてめんどくさい以外の何物でもないと思うが、それとこれとは別なのだろう。

つき合うのに型通りの攻略法はなく、それが難しいと感じてるのかも。僕だって何度やってもコツが分からない。他人から「どうやったの?」と聞かれたとして、いっこも伝授できることはないのだ。しかし、世の中にはそんな難題をクリアしているカップルがたくさんいて、せっかくクリアしたのに心を揺らし続けている。

 

街ゆく2人を見ていると、なんとなく顔面偏差値って同等レベルに収束されるように思う。男側が「ガタイがいい」「悪そう」「金持ち」のどれかでない限り、あんまり”東大&Fラン”の組み合わせとか見かけない。
毎日鏡を見てるうちに何かが審美眼に作用しているのか、単純に自らのポテンシャルでできる最大値を目指した結果なのかは分からない。

しかし、カップルを長続きさせる主因は顔面偏差値ではないだろう。僕はその秘訣が、”美意識偏差値”にあるとにらんでいる。
簡単に言うと、自分磨きをどれくらいがんばるかってこと。

記憶の限り、何度も服を着替えてワックス毛束ネジネジで挑んだデートが上手くいった覚えはない。気を張らずにありのまま過ごした結果、いつのまにか最終面接に進んでいたケースが圧倒的に多い。それはつまり、がんばりすぎちゃってる僕を評価するような人を、僕自身が好きではないということなのだろう。

 

2人が足並みをそろえて進む以上、顔面の衰えは多少なりとも近しく進む。その点、美意識にはもっと大きな隔たりが生まれることがある。どちらかだけが服に気を遣わなくなり、相手の頑張りを卑下するようなことを言ってみたり。

たとえば僕が突然始めるダイエットを見て、妻が「そんなブクブクでもないんだからはよ働らかんかい」と思ったとしても無理はない。僕は僕で、妻のミリ単位の前髪調整を見て、「その違いを視認できる人類がいるのか……?」と訝しがったりもする。
もしこの疑問を軽率に声に出した時、2人の距離は離れていくんじゃないだろうか。

あの計算しつくされた化粧品のラインナップが、別に僕だけのためじゃないと分かっていても。変わらぬ速度で自分磨きをしてくれている事実に、感謝を持ち続けていこうと思う。

 

余談だけど、箱に整然と詰まった妻の化粧品セットを見ていると、ギターのペダルボードを思い出す。踏むと音がギャーンとなったり、エコーがかかったりするやつだ。
他人に「そんな細かな違いが意味あるの?」「1つ〇〇円もするのに」なんて言われても、その試行錯誤が楽しいし、憧れの人に近づけるのが嬉しい。そんな小さな変身こそ、人生のすべてだと思うのだ。

と、そんな事情もあって僕は妻の美容まわりにリスペクトをもっている。当の僕自身はそれほど美容に熱心ではなく、顔洗って極潤べちゃべちゃやって終わりなんだけど。

 

ギターでいうとオーバードライブ一発って感じ。
ごめん分からないよね。でも、分からないことを交換しあうのが楽しいのよ。
それが恋ってもんじゃないかしら。