眠眠カフェイン

横になって読みたい寝言

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「他人が見て面白い文章」を考える


僕はもともと文章を書くのが好きなわけじゃありませんでした。
学生時代の作文やレポートは、原稿用紙に向き合っただけでうんざり。書きたいことが浮かばずどう余白を埋めようかばっかり考えていたタイプです。

 

そんな人間がひょんなことから出版社に入って、コラム記事を書くことになります。
それは寝耳に水であり、火炙り地獄のはじまりでした。
なんせ書ける書けないを飛び越えて、”面白いもの”を求められるんですから。しかもディレクターという名の鬼まで付いて。

原稿を見せれば「これの何が面白いの?」「キミ、脳みそ使ってる?」と忌憚のないご意見をいただき、締め切りまでめいっぱいまで、苦悶の表情で面白さを追求する日々でした。

結果として初歩の初歩、赤ちゃんで言えばバブーくらいのテクニックは身につけましたので、まとめてみようと思います。もし「面白い文章を書きたいけどまったく自信ないよー」って方がいたら、僕の屍を越えていってください。

 

 

①ただの「感想」はつまらない

基本中の基本。
昨年、「それあなたの感想ですよね」が流行語になりましたが、普通の人が普通に感じたものを普通に書いても何にもならないのは、悲しいけれど真理です。ブログやSNSといった匿名の場ならなおさら。

僕も出版社時代は名前を伏せて書いてたので、この点は強く意識してました。隙を見せたらディレクターから「誰もお前に興味ねえよ」って言われてたし。言われるの嫌だし。

(例)

今日はコンビニに行った。レジ横におでんの機械が出ていた。いいにおいがした。9月も半ばを過ぎたし、そろそろ寒くなるんだろうな。そういえばもう何年も食べていないし、次行ったら買ってみよう。ちなみに私ははんぺんが一番好きだ。

 

まー、ひどいですよね。
日本の西の方から知らんがなの大合唱が聞こえてきそうです。

別にコンビニみたいな日常テーマに限らず、話題のニュースや、巷で評判の映画についてだろうと、工夫のない感想はだいたいつまらない。

「エジプトで7種類の毒蛇に噛まれた経過比較」とか、レア度SSRな体験なら感想だけで全然OKですが。

 

 

②「気づき」で少しマシになる

思った、感じたことをやみくもに列記するのではなく、一定の法則で束ねると若干マシになります。

具体的には気づきや、疑問の投げかけ、問題提起と呼ばれるもの。

 

(例)

・そういえば、おでん鍋は何年前からコンビニに置かれるようになったのだろう?
・蓋をしないのは衛生面で不安が残るが、やっぱりあの匂いがお客さんを呼ぶと思う
・ロールキャベツが売り切れているのは見たことがない、おそらくその理由は〜

 

これでようやくテーマができるというか。単なる気持ちの羅列よりは客観性が出て、読み物っぽくなりますね。ブログなんかだとこの「ひとくだり」単位で投稿してる人も多いと思います。タイトルもつけやすいし。

ただ、面白みという意味ではまだまだ不十分。脳内で数分こねくったくらいの考察は、よほど斬新な角度でない限り「知らん誰かの思いつきに何の価値が?」の域を出ません。

で、ここから打開策が2つに分岐します。

 

 

③ 「お役立ち」か「物語」か


A.お役立ち

軽い考察を頭の中で完結させず、掘り下げて調べてしまおう!というノンフィクション的手法ですね。

 

(例)

・レジ横おでんの歴史は約50年、実は日本にコンビニ文化を浸透させる原点だった
・おでん鍋に蓋をしない理由、セブンイレブンに問い合わせてみた
・コンビニで人気のおでんダネは関東&関西でこれだけ違う

 

たとえ知らん人が書こうと、客観的な裏付けをもとにした「情報」には価値が生まれます。個人ブログで一次情報にあたる(図書館行く)ほど気合いの入った人も少ないでしょうし、大体はどっかのネット記事を引っ張ってくるとかになりがちですが。

これは”文章が面白い”というより、”情報が面白い文章”って感じですけどね。情報感度がよくて、リサーチが苦にならない方にはオススメ。もちろん文章力があれば理想的です。

調べものをする分だけ時間はかかるんで、下手に毎日更新とか決めちゃうと薄っぺらくなるデメリットはあるでしょう。数を量産してSEOで稼ぐとか使いようはあるかもだけど、だからって別に面白くはなりません。

 

B. 物語

もうひとつは、自分の感情以外の情報量を増やして、小説みたいに書いちゃうって方向ですね。

 

(例)

列の先頭では、若い東南アジア系の店員がおでんの注文を受けていた。ただでさえ日本語は難しいのに、「味しみ牛すじ串」なんてネイティブでも噛みそうな品名をたやすく聞き取っている。コンビニ店員はとかく軽く見られがちだけど、実はレベルの高い留学生なのかもしれない。

 

いかにも自分の考察です!って感じじゃなくて、周囲の描写を手厚くした上で考察を混ぜ込むカタチです。

 

小説だって言わば知らん人たちの物語だけど、こういう描写で画が見えるから興味が湧いてくるわけじゃないですか。大した出来事じゃないのになんか読めちゃうんだよなあ、っていう文章は細部がひたすら丁寧。か、逆に振り切ってクレイジー

お役立ちとは違い、単純に文章力を磨いてファンをつけたい場合はこの方向を目指してみると良いでしょう。文章の個性が出しやすい分、SEO対策には不向き。

でも僕はこっちのほうが好みです。
ブログで稼ごうと思ってないし、調べものは極力したくないタイプなので。

 

④万能スキルは「例え」と「引用」

いや、私は物語も書けないし、わざわざ調べものもしたくない!
という方が手っ取り早く面白味を身につけるなら、とにかく「例え」「引用」を使いこなしていきましょう。
特に例えは、個性ある文章を目指すなら必携スキル。


たとえば僕は前回の投稿で、おにぎりへの愛情を伝えるために

もしもパン食い競争の要領でおにぎりが吊るされていたら、
「その処刑待ってください!」と駆けだしてしまうかもしれない。
そんな身勝手が起こるほど、好きだ。

と書きました。

もちろん好き嫌いはあるでしょうけど、少なくとも”どこにでもある文章”からは脱却できます。真面目にも不真面目にもいける万能テクニック。

 

自分のことだけだと恥ずかしいので、ほかの方もご紹介すると、最近ではtakian2000さんの記事↓が面白かったです。

タイトルの「QOLあげてくれる」「紅茶泥棒」からすでに良いんですけど、

「小麦粉界隈の貴公子、スコーンにあてがうと今後の人生どうでもよくなるくらいにおいしい」

はとりわけズガーンときましたね。
やったろやんけ!と高速でAmazon発注してしまいました。

毎日の朝食にいかがですか?なんて言われるより、ずっと心に残ります。

 

もうひとつのワザ、引用も手軽でオススメです。
お役立ち記事みたいに本格的なリサーチをしなくても、おでんにまつわる作品(例えば本や映画のワンシーン)をさりげなく差し込むだけでも、グッと味が出てくると思います。もとから魅力あるものから、力を借りてくるわけですね。

(例)

昔は映画でも、酒飲みのシーンは居酒屋ではなく、露店のおでん屋が良く使われていた。特に下町界隈では、うす暗い通りや行き交う人々のうらぶれた雰囲気までまるごと伝わるからだろう。小津安二郎の映画『東京物語』ではこんなセリフが出てくる――

 

こんな感じで具体名を出していくと、知らん誰かの感想、とは言いづらい仕上がりになっていきます。


例えにしろ引用にしろ、こういう工夫がなぜ必要かって、個人の感想文特有の密室感に風穴が開くからなんですよね。

つまらない授業風景を描くのでも、
「教室内はサバンナのように暑く、生徒たちは狩りに疲れたオスライオンのように伏せていた」
とか書くのって自由じゃないですか。

そんな風に、ポーンと新しい世界が拓けるのがいいんです。読み手はそこに「斬新!」とか「あるある!」と感想を抱いて、書き手に対して親近感を抱くんだと思います。

 

⑤自分なりのポリシーを決める

これは伝えづらいけど、地味に大事。
面白さっていろんな方向性があるから、やみくもにやるとトーンが散ります。ある日はブラック気味に書いてみたり。また違う日はくだらなさ前回のギャグテイストになったり。そうすると、単体の投稿では良いけど書き手ならではの個性が出づらくなります。

かくいう僕も、色々実験したいがゆえにとっちらかる傾向があるんですけど…それでもブレないようにしてるポイントがひとつあります。

 

それは、シリアスとユーモアを常に両面もつこと。
砂糖には別の甘味を足すより塩を足した方が引き立つように、「シリアス100%」とか「ユーモア150%」はあんまりやりたくないんです。

もちろん上手い人がやると狂気的で面白いんだけど、たいていはバッチバチに力んで見づらい文章になる。堅いテーマの時は笑いを、ゆるいテーマやふざけすぎてる時は締める表現を、とバランスを取るほうが無難です。

日本人はあまり意識しないけど、他人と関わる上では”ユーモア(ウィット)”って大きな意味を持つと思います。

 

***

以上です。
もっと高度な話をすると、「文章のリズム」「デザイン」「読み手を想定したワード選定」…といった内容になるんでしょうが、さすがにそこまで行くと職業的すぎますね。

僕みたいに個人ブログでやる程度なら、あくまで自分が書きたいことを楽しく書く+αの範囲で、上に挙げたようなことを意識するといいんじゃないでしょうか。
って僕もまだ試行錯誤の連続なんですけど。

 

あと誤解ないように添えると、ブログって退屈でも全然いいですからね。
アウトプット目的の日記も全然成立してるし。
あくまで「ちょっとでも面白くしたいな」という初心者の方向けの共有でございました。