眠眠カフェイン

横になって読みたい寝言

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他人に興味がない星人たち

 

前の会社に入る前のこと。
面接官であり、直属の上司になる女性(以下「女上司」)から
「部署の飲み会とかはないですよ。私、他人ひとに興味がないので」
と言われた。

 

他人に興味がない、という人は一定数いる。
その半数はどこか誇らしげだ。

とはいえ他人に興味がない=話し相手にも興味がないということで、普通に考えれば失礼だ。もっと言い方があるだろう、と毎回思う。
実際、その面接時にもちょっとだけ悪い印象を抱いた。

ぴっちり整えた髪、身だしなみも所作も美しい。それだけに、言葉のつまらない棘が目立ったのだ。いや、クールな宣言が似合い過ぎたのかもしれない。

 

入社してみると前振りは現実になった。
女上司は、僕と同期入社したI君の名前を、いつまでたっても逆に呼ぶのだ。身長も、顔だちも、声も、経歴も、名前の響きも、育ってきた環境も全然違う。ドーベルマンと柴犬くらい違うっていうのに、
「Iさん、ちょっとご相談よろしいですか?」
とまっすぐな目で僕に話しかけてくるのだ。
僕(どちらかといえばサイズ的に柴犬)は、そのたびに目をぱちくりさせて自分を指さした。

 

まったく悪びれないわけでもない。
名前を間違えた時は文字通り体をくねらせながら
「あ!もぉ~…私またやっちゃいましたね…すみません」
と毎回ファーストリアクションで猛省していた。なぜこれが次に活かされないのか不思議でならないが、良い具合に人間味のスパイスになっていた。

 

もちろん、そのほかの仕事は抜群にできる。とにかく仕事を増やしたくない公務員タイプなので、一部で仕事を頼みづらいという評判はあったものの、特別アクが強いわけでもなかった。

ということで、一緒に仕事するあいだ、女上司に対して「他人に興味がないんだろうな」という印象はほとんど受けなかったのだ。名前を間違えるおっちょこちょこちょいちょいちょい、というだけで。

 

 


どちらかというと、”細かすぎて伝わらない”部下への指導方針が問題に思えた。それはまさにマイクロマネジメントで、その粗探し具合は、みかんでいうと白いスジ全部とってオレンジの球体にしてしまうレベル。少しでも離席するなら声掛けは必須だし、コロナのリモート勤務時は1分単位での業務ログを要求してきた。

 

そんな女上司にとって、同期のI君は天敵ともいえる存在だ。
過去の投稿「電話嫌いな同期社員~」でも触れたが、I君の社会性のなさはモンスター級。彼が破天荒な行動を取るたび(例:会社の冷蔵庫ににんにくの醤油漬けを持ち込んで昼にかじる)、
「Iさん、相手の立場になって考えましょう」
と指摘する風景がたびたび見られた。

残念ながら、その「Iさん」をしょっちゅう「ネムヒコさん」と間違えるので、どの口が言うとんねん!とツッコみたくなる時もあったが、それ以外は超がつくくらい常識的だ。

だからこそI君とのやり取りが超絶ストレスとなり、僕にすべてを丸投げして他部署へ異動してしまったのだけれど。

 

最初は、他人に興味がないから指導するのが嫌なのかな、と思った。ただ、I君以外とはうまくやっているのだ。部署メンバーの定着率も高い。他部署の人とくだけた雑談もするし、時々はランチへも行く(仕事の話ばかりらしい)。

 

どちらかといえば、他人に興味がないのはI君の方にみえた。
雑談は皆無、いつも仏頂面で、弁当を高速でかっこんではすぐに寝てしまう。僕も彼に3か月程度声をかけて、それも話題は彼の趣味であるゲームに寄せまくって、やっとそれっぽい会話になったくらいだ。

彼と絡んでいると、女上司はむしろ、「他人に興味がなくて気を遣えないようや人は苦手」な人に映った。なんとも皮肉な話だ。

 

I君自身、「他人に興味がない」と宣言することはなかったが、「自分は自分、何を言われても構わない」と口癖のように言った。昔からいじられ、時にはいじめられたがゆえの処方箋だろう。それはそれは頑なだった。

特に、奥さんへの執着は常軌を逸していた。
オタサーの姫的な彼女に一目惚れし、何度も熱烈アピールし続けて射止めたという成功体験が巨大な自信を生んでいるらしく、公私含めていつでも彼女が最優先。社長との給与改訂の場でも、
「妻がダメだと言っているんですが」と真顔で言っちゃうくらいだ。

典型的な、自分の好きな人以外は興味がないという状態。女上司についても、あんなにガミガミ言ってるから結婚できないんだ、と度々非難した。

 

果たしてそんな彼より、女上司は他人に興味がなかったのか。
僕はそうは思わない。
本当に興味がない人は、わざわざ自分が他人に興味があるかを、他人に教えようとはしないだろう。業務上は他人をよく観察している人だ。アンテナが鋭すぎるゆえに、I君のようなトリッキーなタイプに惑ってしまう。

 

ダメな人に苦しむから、過度な興味をもたなくしている人。
好きな人に執着し過ぎて、それ以外に興味がなくなった人。
他人に興味がないことにしないと、心身がもたない人。

いろんな形があるものだ。
2人を見ていたら、興味って何か少しわからなくなった。
他人に興味がある、なんて誰が言えるんだろうか。

 

もしかして僕だって興味がないのかも。
他人の話を聞くのは好きだけど、別に人懐っこくはない。他人から生まれた言葉、感情の起伏、物語に興味があるわけで、ガワごとぜんぶ愛せるわけじゃない。

たぶん、”人食い”とつく石狩のヒグマのほうがよっぽど人間にぞっこんだ。

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あと女上司は別部署に異動してすぐに結婚した。
ますますわけが分からないよ。