眠眠カフェイン

横になって読みたい寝言

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出会い系きっかけで3か月同棲した話 3/3(サヨナラ編)

(出会い編)  (生活編)に続いて、いよいよ最後となります。

  
Zとは「恋人」という雰囲気ではなかったものの、お互いの友達を何人か紹介しあったりはした。なぜ地元も大学も文理も違う2人が急に知り合ったのか、アリバイを作るのは大変だったけれど。

人としては信頼し合っていたように思う。僕とZの共通点は嘘が苦手(たまにつこうとはする)というところにあり、だからこそすぐに同棲するなんて芸当ができたのだ。

それでも、別れは突然訪れる。

 

 

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ダイエット

口寂しいからお菓子を食べた、タバコを吸った、くらいの感覚で一緒にいる人間たちにとって、縁の切れ目はいたるところに存在する。

僕らのきっかけはZがはじめたダイエットだった。こっちからしたら、この生活を続けるうえで夕食のボリュームがなくなるのは死活問題だ。とはいえ向こうはそんなこと知ったこっちゃないので、思春期女子特有の極端すぎるダイエットに打って出た。マイクロダイエットだかなんだか…毎夜毎夜シェイカーになにやら調合して、ピンク色に仕上がった液体を胃に流し込む食生活だ。マッドサイエンティストにもほどがあるだろう。

当時の僕ですら、Zが「筋トレをしてたんぱく質をとってカロリーを消費>摂取にして有酸素運動をすれば」なんて正論が通じるタイプの女子でないことは分かったし、彼女の暴走をうまいこと軌道修正することができなかった。

 

体重は50kgを切りかける。
このままじゃ死ぬ。僕は別れを決意した。
Zの家から大塚駅までの道のりにある角海老宝石ボクシングジム(当時はあの坂本博之も所属していた)を横目に、「俺、今何級なんだろう…」なんて考えたりもした。



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別れ(交渉)

Zは予想通り、まったく痩せなかった。別れを切り出したのは皮肉にもマクドナルドだった。僕は悲壮感を演出することもなく、日常の延長線上で「そろそろ実家に帰るよ」と告げる。Zはそれを当たり前のように受け入れ、軽々とポテトを平らげた。

ところが、荷物を引き上げるために彼女の部屋へ寄った際
「私、ネムヒコ君いなくなったら死んじゃうかも~」
と、突然の重さを漂わせたのだ。
語尾こそ「かも~⤴」とふざけてはいたものの、それまでメンヘラ発言は一切なかったので面食らった。地方から出てきて初めて一緒にテトラポットに上ったボーイフレンドだから、それなりに場が生まれたのかもしれない。

 

僕は「まあ絶縁するわけじゃないし」となんとかZをなだめる。まあ友達は多いヤツだし、ひとりきりになってふさぎ込むこともないだろう。なにより背に腹は代えられない。ご飯が、食べたい。

ただ、心残りもひとつあった。愛用の緑のシャカシャカパンツだ。夏は涼しく冬は暖かく。それはそれは奇跡のような素材で、すっかり愛着がわいてしまっていたのだ。
空気を読まずに聞いてみる。

「これ、もらっていい?」

 

Zは答える。

 

「五千円。」


た、高~。3ヶ月しこたまはきこんだら、ブックオフだってそんな値はつかないよお嬢ちゃん。当然、そんな値段は払えないので、僕は泣く泣くシャカパンをあきらめた。
こいつは死なねえな、と少し安心しながら。

 

衝撃のラスト

冷蔵庫には食料。タバコの吸える部屋。僕は実家のありがたみを感じながら、日々の平穏と体重を取り戻していった。

絶縁するわけじゃない、とは言ったものの、さすがにもう会うことはないと思っていた。あるとすれば向こうがよっぽど寂しくなった時だけれど、人恋しければまた出会い系でも使うだろう。

…が、そんな読みは1か月後にはかなくも砕け散る。

 

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大学の教室に入ったら、Zが何食わぬ顔して座っていたのだ。
僕の友達と仲良さそうに並んで座って。

いつの間にメールを交換して進展させていたのか? その時の心境は、言いようがないほどホラーで、あの日のシャワールームに匹敵するほど毒々しい心地がした。

 

ネムヒコ君がいなくなったら、
ネムヒコ君がいなくなったら、
ネムヒコ君がいなくなったら…

リフレインする言葉たち。
ああ、男はなんと思い上がりで、女はなんとしたたかなのか。


帰り際、「生きてんじゃねえか!」と頭でもはたこうとおもったがやめておいた。あと、それ以降その授業に出るのもやめた。

こうして僕は友達のひとりと貴重な単位4を失った。なにも 友達と縁を切る必要ないと思うかもしれないが、さすがに気まずかったのだ。あいつのことだから僕との生活も明け透けに話しただろうし、メールでその友達との性の相談をめちゃくちゃしてきたから。

 

***

いま思えば、あの3か月の生活で得たものは意外に多かったと思う。知らない地方の、珍しい性格の人と過ごして、女性のたくましさを感じることができたのだから。変な出会いも無駄にはならないものだ。
僕の恋愛遍歴の中で、「オレこの人のこと好きなのかな?」と半信半疑で一緒にいたのはZだけ。”そっち側”も体験しておくのは、その後の女性関係においてある種の物差しになった。

わかりやすく「出会い系」と書いたとはいえ、それなりに自然ななりゆきだった。当時はZと知り合ったチャットに限らず、よく分からないネットサービスを使ってバンド仲間、将棋仲間、草野球仲間といろんな人と出会ったし、それの男女1on1用というくらいの認識。いまで言うと、ツイッターでDMを送るのに近いだろう。

風のうわさで、Zはメジャーな化学メーカーに就職したと聞いた。いまごろ、あなたのシャカシャカパンツでも開発しているかもしれない。