いたってタイトル通りの話になります。ルッキズム注意のご時世、および妻バレした時のダメージを考慮してアップするか迷っていましたが、読み返して自分で笑ってしまったので載せることにしました。
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時は2000年前後に遡る。
出会い系、とタイトルには書いたものの当時はそんな言葉すらなかった。僕が利用したのは「ツーショットチャット」と呼ばれる無料のサービス。まあ、わかりやすく言うとPCでしか使えなくて、文字しか打てないLINEみたいなものだった。
今と比べたら個人情報の意識なんて
なぜそんなサイトに辿り着いたかと言われると、まあ、夏だったからとしか。
出会い
クソ暑い日の夜、渋谷駅で待ち合わせ。定時通りに現れたのが、今回ヒロインの大役を仰せつかったZちゃん(仮名)である。
ダボダボTシャツに細いパンツ。バッジだらけのでかいリュックに変な帽子。上半身におしゃれが詰め込まれ過ぎて、傍目にはアメリカンドッグに見える。ドッグは僕の姿を見つけるとなにやら動き出したが、一瞬向こうに行っているのかこっちに近づいているのか分からなかった。(夜道でよくあるでしょ、そういうの)
会った瞬間、「私で大丈夫?」と風俗みたいなことを言われて不安になる(あとから聞くとシンプルに不安だったようだ)。目はパッチリしていてパーツの配置もおかしくないが、ドラクエのスライムを想起させた。
カウント2.9秒で「大丈夫だよ」と回答。
すると、Zは「よかった」と言いながらおもむろにリュックからハート形のサングラスを装着した。帰りたいこと山のごとし。
遊ぶ
普通にカラオケ。普通に歌い、普通に仲良くなるが、途中からの怒涛のaikoラッシュには参った。オードブルにカブトムシはさすがに胃もたれしてしまうよ。
(しかしaiko問題はこれだけにとどまらず、長いあいだ悩まされることになるのであった)
Zは同い年で、東京の大学に通うために地方から出てきたばかり。リストバンドやら、インディアンジュエリーやら、目の下のラメラメやら。東京に憧れすぎてイデオロギーが大渋滞。家には「76」と書かれた謎のグッズがあると容易に想像できた。
ごちゃごちゃと着飾ってはいたが、田舎の子らしく素直な性格なのはすぐに分かった。僕が繰り出すサザエさんのモノマネにも腹を抱えて笑い転げたくらいだ。(なんと、僕はキャンキャンが世に出るずっと前からマスオさんの「え゛ぇ!?」をマスターしていたのだ)
Zは笑いが頂点に達すると「ハァーン」という音を発する。管楽器みたいな不思議な体の構造をしていた。そのせいか尋常じゃなく声がでかい。
最後は一緒にハイスタを歌って終了。
家に行く
そんなにすることもないので、Zの家に行った。山手線の大塚駅から歩いて5分くらいとなかなかの好立地だが、謎の小道を何度も通らされる。自力では2度と辿りつけないだろうと思ったし、2度行くつもりも特になかった。
家に入るとインテリアがカラフル過ぎて目が痛い。その辺はあとからじっくりツッコませてもらうとして、とにかく独りになりたかったので、さっそくシャワーを浴びさせてもらうことにした。Zはきっと、僕のことをものすごくやる気満々と思っただろう。
が、そこでとんでもない事態が待っていた。
シャワールームが真っピンクだ。
画像では表現しきれないけれど、サンリオじゃなくて、南米の毒花みたいな色。どんなセンスなんだ!と一気に首筋が寒くなる。シャンプーはいかにもヴィレヴァンにありそうな出オチ銘柄で、馬の首がポンプになってるみたいなヤツだった。怖いので早々に浴びて出る。すると、真正面の洗濯機には髪をリーゼントにまとめたトータス松本のポスターが貼ってあった。
ほう、こんな感じが好きなのか。正常な判断力を失った僕はおもむろに濡れた髪をかきあげ、ガッツとバンザイ精神を両手に、顔を火照らせたスライムベスちゃんのもとへ向かった。
電気を消す。スライムベスがダークスライムに変わる。
Zはものすごく保険をかけたかったのか、「痩せれば可愛いってよく言われるの」としきりに言った。実際に触った身からすると、重い軽いというよりパンパンなだけ。食生活の改善をおすすめしますよといった感じだった。
一方、当時の僕はいまより10キロは痩せていて、174センチ53キロくらいの枝。Zはたぶん155センチ52キロくらいだから、そのくらいの質量の物体が2つ激しく動いたという意味では、あの夜は世界バンタム級タイトルマッチと似たようなものだったといえなくもない。
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翌朝
ア"ーーーーー!!!
謎の絶叫で目が醒める。前日のマスオさんの100倍返しだ。なにやつじゃ!と飛び起きると、aikoの『ボーイフレンド』が爆音でかかっていた。
ズチャズチャズチャズチャ♪
アンディウォーホルが好きそうな色彩の部屋を見渡しながら、鬼の形相で間奏をやりすごす。
次第に事態が飲み込めてくる。
と同時に殺意が湧いた。
…Zの目覚ましだ。
こいつ、こんな状態で真面目に大学行こうとしてやがる!
それからというもの、毎朝aikoの歌声にのせて無理やりテトラポットに登らされる生活がはじまるのであった。