眠眠カフェイン

横になって読みたい寝言

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失踪したバンド仲間・エーコへの手紙

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鬱屈した男子校生活で初めて話した女子高生。

それが君、エーコでした。

僕がネットの片隅に「ベース募集中」と書き込んだら、千葉の山奥から降りてきましたね。

会った瞬間からタメ口で、下の名前を呼び捨て。

だから僕も負けずにそうしました。

今でも、バラエティ番組で売れようと必死な女性タレントを見ると、君のことを思い出します。

 

初めての練習。

渋谷駅に現れたのはでかいサングラスをかけた君。

服もバッグも靴も、楽器ケースも中身のベースも全部黒。

胸元で高速回転するスケルトンのディスクマン

ミッシェルガンエレファント『High Time』のレーベルだけが白でした。

へたくそなのにヘッドレスの5弦ベース、なんて

初めての海外旅行でイスラエルを選ぶみたいな破天荒チョイス。

 

強豪女子バレー部みたいな髪型で

石原軍団みたいな恰好で。

いまでも龍が如くの亜門を見ると、あなたのことを思い出します。

 

亜門 丈|『龍が如く ONLINE』プレイヤーズサイト|SEGA

 

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初めてのライブ。

駒込のスタジオで練習をして、本番は千葉のゴーストタウンで。

無駄にセクシーなタンクトップの君がクラスの人気者だったせいで

僕らの時だけ盛大に巻き起こるアンコール。

何も用意してなかったから、最初に弾いた曲をひと回り元気に弾きました。

みんな髪の色をあべこべに染めて

ペッペケペーな音を出して。

勢いあまって、全身MILKBOYのピエロみたいな男に持ち帰られた君。

いまでもミルクボーイの漫才を見ると、君のことを思い出します。

 

初めてのケンカ。

僕とドラムの彼が仲良すぎて同性愛者だと思った、というどうでもいいイジリから

新宿で怒鳴り合いになったよね。

「殺」という字を8回くらいずつ放ちあう僕らに東口の警官もびっくり。

泣いてもすぐに笑う君だから

気持ちをぶつけ合うことができました。

最近、竜ちゃんの追悼番組を見たりすると

あの時カウボーイハットを叩きつけた、君のことを思い出します。



 

初めての誕生日会。

君は、アロハシャツに短パンに麦わら帽で

なにかの実を飲み込んでしまったようでした。

顔の高さまである特大パフェをおごるからと言って

3本のストローを挿しこんで

胃の中をバニラでバリウム検査くらい真っ白にして

つぶれたカエルみたいな声でカラオケ。

いまでも逆円錐状の物体を見ると、君のことを思い出します。



初めての旅行は渋すぎる長野で。

赤いビートルズのスコアを3つ抱えて、高速道路に乗りました。

勉強と称してCDをまわし

「この曲が終わるまでに、次のサービスエリアまで着かなきゃ死ぬ」

なんてルールを決めて、国土交通大臣がひっくり返るほど飛ばしたよね。

作曲合宿のはずが楽器は手つかず。

気づけばビートルズのスコアは、卓球のラケットになっていました。

旅館ではファミコンをレンタルして

朝まで『ミシシッピー殺人事件』を初見プレイ。

案の定攻略に行き詰まったら、夜中3時なのに友達に電話するそのたくましさ。

今でも警察24時のクレーマーを見ると、君のことを思い出します。



旅行中でもちゃんとケンカするわれわれ

 

なぜか大学では牛の研究をはじめ

なぜか突然坊主になって

なぜか落語研究会で屋号までもらい

なぜかろくでなしの彼氏をつくって。

 

わざわざ湘南まで僕たちを呼びつけて

とっくに壊れたベースで、セッションをせがんだ君。

部屋の中でもアンプにつないで遊んでいたら

彼氏に3人丸ごと蹴りだされました。

砂利を敷き詰めたアパートの駐車場で

やりすぎたねと笑ったけれど

 

君がふと漏らした

「もうあの部屋に帰りたくない」

その言葉の真意を、僕はなぜ汲んであげられなかったのか。

 

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好き勝手やってたのに

言いたいことは全部言ったのに

少しだけ後悔があります。

時々ものすごく嫌いだった

その姿は紛れもなく青春だったから。

初めてのバンド。

学割で格安になるからと、スタジオで出した学生証。

そこに映る、笑いをこらえられないみたいな悪戯な表情は

いつしか消えてしまいました。

君のイケナイものに手を出して、別人みたいに痩せてしまった。

別れを告げることすらできなかったけれど

僕は音楽をやりたいと思うたび

君のことを思い出します。