眠眠カフェイン

横になって読みたい寝言

眠眠カフェイン

過去イチ笑った活字本

今週のお題が「最近おもしろかった本」ということで。

僕も曲りなりに出版社で働いていたことがありまして、
それなりに本を読んできました。

ただ以前にも書いた通り、小さいころから本の虫!というよりは、勉強や仕事の絡みで読むことが多かったタイプ。とても含蓄のあるレビューをおけすることができません。

そこで今回はシンプルに”笑った”と言う意味で面白かった本をご紹介します。

 

そもそも、みなさん本でゲラゲラ笑ったことがありますか?
これって実は結構珍しい体験だと思うんですよ。漫画やムック本みたいに絵や写真ががついているものならともかく、活字だけでそこまでいくのはかなりレア。相当いい角度で笑いのツボに刺さらないと無理なんじゃないかと思います。


僕は人生で一冊だけとびぬけてるのがあります。
さっそく発表しますが、「さぞ笑えるんだろうな!」とはどうぞ構えないでください。フランス映画ってどんなものかな?と手を出しちゃうくらいの気軽さで、人のゲラポイントをのぞき見ていただけるとありがたいです。

 

 


2013年8月に出た、
統合失調症がやってきた』
(著:ハウス加賀谷松本キック /出版社:イースト・プレス

です。

著者は松本ハウスというコンビ芸人。伝説のバラエティ番組「ボキャブラ天国」にずっと出ていたので、35歳くらいを超えていればご存じの方も多いんじゃないでしょうか。

コンビのボケ担当であるハウス加賀谷さんが、統合失調症に悩まされた半生を綴った自伝的作品。統合失調症は幻聴・幻覚すら引き起こすこころの病気ですから、かなりシリアスなテーマですよ。
それでも芸人さんが書いているからボケまくってるんじゃ?というとそういうわけでもなくて、むしろ笑いを職業にする人間が、笑いきれない瞬間の寂しさが目立ちます。

 


こんな重めの本で、僕が何に笑ったのか。
実は主役のハウス加賀谷さんもほとんど関係ありません。

該当箇所は著書内155ページ。かつてのバンド仲間・モンチが初めて精神科閉鎖病棟を訪ねてきたとき、加賀谷さんに向けていったセリフです。


「いやあ、入ったらびっくりしたわ。ロビーでたむろしとるみんなが、革ジャン着てるワイを見て『永ちゃんだ、永ちゃんだ!』『矢沢永吉が来た!』って騒ぐけ、えらい恥ずかしかったんよ」


ここですね。
初めて見た時、僕はスプレーかけられた虫みたいにひっくり返って笑いました。隣の部屋にいた妻が心配になって駆け寄ってくるくらい。

閉鎖病棟の重苦しさ、人の良い岡山弁、革ジャンだけで即矢沢永吉扱いされるところ。それまで偏執的で扱いづらく描かれてきた精神病患者たちが、一気にかわいく思えてしまいました。

もちろん、患者に笑いものにする趣旨ではありません。弾丸飛びかう戦場の中で生まれた奇跡的画角、いわばピューリッツァー的な笑いとでもいうのでしょうか。実際、作中で加賀谷さんはモンチから話を聞いた際、「笑った。ひさびさに腹の底から笑った」と救われた談を述べています。

きつい、苦しい。そんな時、大きなヒントを与えてくれる瞬間だと思います。


 

この体験で驚いたのは、僕は直前までクスリとも笑っていないこと。それまでの空気感が<緊張と緩和>を生んでいるとはいえ…「こっそり笑かそう」と下ごしらえ感すらなく、たった85文字でボルテージをゼロからMAXに跳ね上げてくれたのです。

言葉って偉大だなあ、と改めて思い知らされる一節でした。