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長期ニートだった僕が就職するまで記(2/3)

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前回の投稿(1/3)ではニートのきっかけになる核の部分を買いた。
どんなことがあっても働いている人はいるし、甘えと言われれば返す言葉はない。

・プライドが高い
・自分本位なコミュニケーションを好む
・仕事へのモチベーションが低い
・親に経済的余裕がある

とメディアが「ニートの条件」を語れば、ごもっともですと僕はうなずく。
それの何がいけないのかは分からないけれど。

 

こうした問題を語るとき、コメンテーターは険しく、呆れた顔をしている。自ら生き方を選べない世代にとっては、怒られたら働かないなんて感覚は到底認められるわけがないはずだ。

僕の父もそうだった。
「向き不向きよりまずは働け。せっかく大学へ行かせたのに,、育て方を間違えたよ」
この世代の人は、とにかくテンプレが好きらしい。
ある意味”純粋”な真っすぐな言葉は、僕を檻の奥へ押し込んでいった。

もちろん生活費を援助し続けてくれた父には感謝してもしきれない。たとえ甘い言葉がもらえなくても、息子としては深い愛情をくみ取らなければならないはずだ。

でも、
せめて嘘でも「大変だったな」「そんな変な会社辞めて正解だよ」と言ってくれたなら。
そんなひねた気持ちを抱えずにいられなかった。

 

 

ニートに生産性なんてないことは分かっている。
国民の納税義務も、人生の有限さも知っている。
それでも、自分が社会で不要な人間だという感覚をぬぐえない。

不謹慎を承知で喩えるとしたら、それは何らかのショックで機能不全に至った生殖器のようなものだ。力こぶをつくる要領では決して膨らんでくれない。男はどんな裸を見てもそうなるべきだと言われても、まず裸を見る気分ではないのだから。
ぐいぐいと乳房を押し付けられたら、余計に辛くなってしまう。


言葉は拳と同じく狂気になる。ちょっとした悪意とぴったりなタイミングで、簡単に人を殺すことができる。僕はよそ見した拍子に社会から殴られ、床ではずみ、リングの外へ飛び出した。

さらに悪かったのは、元凶となった営業部長に対して僕はかすかに信頼の情をもっていたことだ。口は悪いけど、昔気質のトレーナー。決して一線は超えない人だと思っていた。
僕以外の人間は殴らない。それが人の約束だろう?

 

 


月日はあっという間に過ぎていった。
僕にもいっちょ前に人生を後悔したくない気持ちがあったので、大好きなギターを練習し、将棋の勉強を好きなだけやった。おかげさまで、もしかしたら自分にはそっち方面の才能があるのかも…なんて青臭い気持ちは成仏している。

 

結論、長い時間をかけてなんとか僕は社会復帰したわけだけれど、覚えていることはあまりない。社会が騒ぎ立つ朝への嫌悪感と、夕方起きた時の罪悪感と…あとは節約でタバコをやめたくらいか。
軽い買い物やランニングには行ったから、完全なひきこもりではなかった。

※ちょうどこれを書いている2022年9月、僕のニート時代を支えてくれた「BOOKOFF SUPER BAZAAR 八王子みなみ野店」が閉店になった。本やCDだけでなく楽器も服もあって、止まりかけた生活を更新させることができた場所。本当に感謝している。

 

正直、現在進行形でニートの人にどうアドバイスしたらいいのかは分からない。

僕の場合、

・父がリタイアを考え始めた
・お金をかけないでできる趣味が限界を迎えた
・従姉妹が結婚するので見栄を張りたい
・自分自身も、将来できれば結婚したいと考えていた

と複合的な要素があったが、どれも決め手というほどではない。劇的な心の動きはなく、境目なくふわーっと動き出した感じだ。結局は自発的な解決が難しかったのだろう。時間が解決する、なんてニートの親御さんを卒倒させるような結論で申し訳ないけれど。

…そういえば、こんなこともあった。
いや、これはきっかけとして結構侮れないかもしれない。

ある日仕事への意欲がかすかに湧いた僕は、大手リクルートサイトに登録…する前に、ニートの更生支援団体に向けて片っ端からメールをした。
内容は、「僕を働かせてくれませんか?」というもの。

当時はなにより自分が長期ニートだという事実に強烈なコンプレックスがあり、間違っても”引かない”人とやりとりがしたかったからだ。

自分なら弱い立場の気持ちがわかる。
社会の役に立ちたい。働かせてほしい。
団体のHPにある美辞麗句に沿うような、ピカピカの言葉を並べた。


結果は、

返信ゼロ。

人は理念だけの人間を救わない。
支援を謳う彼らですら、クライアントを助けるので精一杯。自腹を切ってまで役立たずを仲間にしようとはしないのだ。

僕はこの一見薄情な結果に、思わず笑ってしまった。せめてお祈り文くらいは来ると思っていたから。

自分のことなんて分かってもらわなくても構わない。
僕はいい意味で、社会に対してドライに立ち振る舞うことを覚えたのだった。


続き(3/3)