眠眠カフェイン

横になって読みたい寝言

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YUKIという女神(好き過ぎてよく知らないレベル)


20年以上ほぼ毎日、YUKIの声を聴いている。

思春期のある日。テレビを点けっぱなしでうとうとしていた僕は、深夜にJUDY AND MARYの『ドキドキ』という曲で起こされた。PVにはブレザーを着てくるくると踊る女の子。僕はそのあと、ずっとその奔放な足跡を追いかけることになった。

なんとなく1枚、CDを買う。当時、うちの家族は年末になると雪国の田舎にでかける習慣があったのだけれど、その年だけは親戚づきあいそっちのけでイヤホンを付けていた。

シュルシュルと回るディスクの音にのって、甘い歌声が回る。眩しい雪景色の中聴くその声は、なぜかとてつもなく心地よかった。だからといって、まさかその後何百万回もループすることなろうとは。

YUKIが函館生まれと知ったのはずっと後だった。ああ、どうりで。

 

正直、生身の女性と恋愛するまでの僕はそうとう気持ち悪かったと思う。

・一人で歩くときは常にJUDY AND MARYの曲を視聴
・CDはもちろん、本や雑誌も見つけ次第すべて買う
・どころか雑誌のなかの写真をスケッチする
・ギターを買って曲を練習し、バンドを組む
・その素晴らしさを詩にしたためる

いま考えても、何になりたいのかさっぱりわからない…きっと何かを吐き出したかったのだろう。(あと、いつ会ってもサインがもらえるようにペンを持ち歩いていた)

少年時代は野球とゲームばっかりやっていた僕が突然文化的な方向に進んだのは、100%YUKIの影響だ。感情の高ぶりと、思いつきを即カタチにする行動力。何かを好きになるって素晴らしくて、ちょっと危うい。

 

ところが、(ここからが闇なのだけれど)それほど人生をかけた深い沼にはまっているというのに、僕はYUKIについて見た目と声以外ほとんど知らない。本や雑誌は買っても恥ずかしくて見られないし、PVを見るのすら相当気合がいる。曲が作られた背景や、歌詞の意味も、ファン同士で語り合うレベルにない。

分かる人は分かると思うけれど、いわゆる「好き過ぎてつらい」という状態だ。いや、本当につらい。歌の時点ですでにMAXに感情を揺さぶられているのに、さらに新しい情報をインプットするなんて無理無理かたつむり。…こんなくだらない小ボケがSEOのいたずらで本人に届いたら切腹したいくらいムリーロ・ニンジャである。
参照:元格闘家ムリーロ・ニンジャのプロフィールページ

 

ともかく、僕の推しスタンスはそれくらいややこしい。好きになったら何もかも知りたくなる派とは決して分かり合えないだろう。


実際、ちょっとした事件が起きたこともある。人生で唯一、女性をぶん殴りたいと思った瞬間だ。

相手は同じ職場の女性。ふとYUKIの話題になったときに、その人が僕の知識不足をバカにしてきたのだ。

YUKIちゃんって八重歯直したんだよ。そんなことも知らないなんて、本当は好きじゃないんじゃない?」

もちろん冗談っぽいやりとりだったのだけれど、言われた瞬間、僕の心はその筋の人が目の前で聖書を焼かれたくらいに燃え上がった。何が”ちゃん”じゃボケ。こっちがどんな気持ちで距離保ってるかわかっとるんか。お前の顔キリで突いて赤いそばかすだらけにしたろ――

立ち上がりかけたその時、僕のいかった肩を同じ職場の別の女性が叩いた。彼女は宝塚ファンで、こっち側の人間。飲食店で推しと会った瞬間に全身がフリーズしてしまった苦い経験をもつ人だ。誰もがポップに推せるわけじゃないことをよく理解している。

仏のような表情で「分かるよ」とうなずく。おかげさまで僕は犯罪者にならずに済んだ。

 

好きな芸能人は?と聞かれたら一番に「YUKI」と答えてきた。

ただ、つき合いたいとか何かを致したいとかは一切考えたことがない。神話の住人に近いというか、マジ天使、いやガチ女神の次元なのだ。結婚のニュースを聞いた時も、強がりでなく純粋に嬉しかったくらい。(お相手が良かったのもある。小室哲哉とかだったらトラウマだ)
YUKI”さん”と呼ばないのも、人を越えてもはや概念化してるからに他ならない。

赤坂BLITZレコード大賞のライブを見に行って、ほんの1~2m先にYUKIを見つけたとき。『そばかす』を歌う姿が神々しすぎて、いまだに記憶中枢が夢か現か判定してくれない。たぶんステージに乱入して抱きしめたら、ふっと消えたと思う。

あと蛇足だけれど、同じステージでは華原朋美も歌っていた。

 

バンド解散、結婚、ソロ活動。
我が女神の歌声は時とともに変わり続ける。

金属質なロリータから、アメリカナイズされたワイルドな遠吠え、時にはハスキーになり、少し鼻声が混じる時期もあり…それはダイナミックで、衰えを知らない。大きな季節のうねりのようなものだ。

そんな人がまだ活動している幸せよ!
僕の家はよくある仏教だから多分そういう感じじゃないけど、ハレルヤと叫びたくなる。

 

会いたいけれど、会ったらきっと困る。
良さを語り会う知識はないけれど、YUKIを好きと言っている人を見ると嬉しい。
僕はずっと、青春みたいな気持ちを抱えている。

あまりテレビに出ないのもいい。
ちゃんとかわいこぶってくれるのがたまらない。
彼女は大きな光であり、僕はそれをお天道様みたいに背負っている。
これって宗教かもしれない。
だから、気軽にアイコンにしたりはしない。

自分からは積極的に調べないけど、たまたま入った店で新曲が流れてたら、慌てて買う。
相変わらずそんな距離感で、あの声を追い続けていこうと思う。

 

***

ちなみに僕がぶん殴ろうと思った同僚女性は、会社主催のパーティーで初めて僕の妻を見て
「へー、やっぱりYUKIちゃんに似てる子を選ぶんだね」
と言ってくれたので完全に許した。